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「さなえ、大丈夫かな」
私はスクリュードライバーを飲みながら言った。
お酒の弱い私は、いつも居酒屋では二杯くらいしか飲まない。なのに、今日は三杯飲んだ。そして、男女で別れた二軒目でもお酒を注文した。
調子がいいわけではなかったけれど、なぜか飲みたい気分だった。
喧嘩なんて無縁だと思っていたさなえと大和にも、色々と思うところがあるのだと知ったからかもしれない。
「大丈夫でしょ」と、あきらが言った。
あきらはペースを落とすことなく飲み続け、二軒目に来ても梅酒を注文した。
「色々あるでしょ、いくら仲が良くたって」
私は小休憩に、コーラを飲んでいた。
「ねぇ、麻衣」
「ん?」
「後輩……、鶴……田? 鶴木? だっけ?」と、千尋がわざとらしく首を傾げて聞いた。
あきらがクスクス笑っている。
『鶴亀コンビ、なんて言われて迷惑だ』と話したことがあったから、『鶴』しか覚えていないのだろう。
「鶴本」
「そう! その、鶴本くんてどんな子?」
「さっき、言ったじゃない」
「一般論はね。そうじゃなくて、麻衣にとってどんな存在か」
千尋が何を聞きたいのかはわかっている。
わかっているけれど、瞼が重く、頭がふわふわして、上手く考えられない。
「ホテルまで来てくれていたのが本当に鶴本くんだったとして、麻衣はどう思う?」
「どう……って……」
「正直に言ってごらん?」
正直に……鶴本くんをどう思うか……?
「……わかんない……」
「何が?」
「調子のいいことばっか……言うから……」
身体が、揺れる。
ふわふわ。
ゆらゆら。
気持ちいい。
「例えば?」
「可愛いとか……エロいとか……言うし……、遊び慣れてる……とか……言うし……」
「うん」
「なのに、高井さんと食事に行くって言ったら……泣きそうな顔……して……」
鶴本くんの泣きそうな顔、ちょっと可愛かったな……。
「七歳も……年下のクセに……」
「生意気な子だね」と、あきらが言った。
「ホント、最近の若い子はチャラすぎ」
ムッとした。
鶴本くんをよく知らないあきらが、彼をけなすのが面白くない。
なぜか、なんて考えられないけれど。
頭の靄を払拭すべく、私はスクリュードライバーを飲み干した。
「けど! いい子だよ!? 私が見られてたら、庇ってくれるし。エロいとか言うけど、胸ばっか見てたりしないし!」
鶴本くんは、私のスカートの短さを注意することはあっても、ジロジロ見たりしない。
むしろ、パンツスーツの時の方が、調子よく褒めたりする。
「麻衣のお気に入りなんだ」
お気に……入り?
「そんなんじゃ……ないも……」
「七歳年下じゃ、婚活の相手にはならない?」
千尋の問いに、私は思わずふふふっ、と笑った。
「私は結婚なんてしないよぉ……」
「結婚相談所に登録するんじゃないの?」
「んーーー……」
頭が重い。
重さに耐えきれなくなって、テーブルに蹲った。
「麻衣?」
千尋の声が、遠くに聞こえる。
「私の身体……ダメダメ……だから……」
恋愛どころか、結婚なんて……。
「ダメダメって――」
それ以上、私の耳には届かなかった。
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