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「麻衣ちゃんなら、すーぐ見つかるでしょ」と、仁美さん。
「そうそう。私が嫁に欲しいくらいだもの」と言って、明子さんが麻衣さんに抱きついた。
「癒されるし、料理上手だし。何と言っても、この抱き心地の良さ!」
明子さんはかなりの酒豪。
俺たちが三杯目なのに対し、明子さんはその倍は飲んでいる。
顔には全く現れないけれど、こういうテンションになってきたら、酔っている証拠。
「明子さん。鶴本くんが羨ましそうに睨んでますよ」
「ん?」
「え?」
完全にノーマークで串を頬張っていた俺は、反応に困った。
「俺の麻衣ちゃんに触るな、だって」
「え? 言ってないですよ!」
「言わなくても、顔に書いてあるわよ」
「鶴本くんに麻衣ちゃんは、十年早い! 男を磨いて出直してこい」と言って、明子さんが一気飲みさながらにジョッキを持ち上げる。
「麻衣ちゃん、結婚てそんなにいいもんじゃないよ!?」
明子さんはバツイチ。
俺が就職する前には離婚していて、高校生の息子と二人暮らし。離婚の原因は知らないけれど、結婚はもう懲り懲りらしい。
「私も婚活、しようかなぁ……」
仁美さんがお通しの枝豆を指で弾きながら言った。
「麻衣ちゃん、一緒に登録しよっか」
「え!?」
「ええっ!?」
麻衣さん以上に反応したのは、小野寺さん。
小野寺さんもバツイチで、娘が二人いると聞いた。副所長で給料もいいのに、養育費を渡しているから楽じゃないと、いつかの飲み会で話していた。
「そんなに驚くことですか? 私だって、まだ諦めてませんよ? 結婚」
仁美さんの挑戦的な物言いに、驚いた。
気まずそうに肩をすくめる小野寺さん。
「トイレ、行ってきます!」と、仁美さんが投げやりに言い残して立ち上がった。
今の会話のどこに、苛立つ要素があったかがわからない。
仁美さんを心配そうに見つめる麻衣さんと、目が合った。明子さんは麻衣さんの腕に自分の腕を絡めたまま。
「僕もトイレに……」
小野寺さんが徐に立ち上がり、けれどそそくさと部屋を出て行った。
「鶴本くんは知らなかった?」
所長が僅かに残ったラーメンサラダの皿を差し出し、俺は受け取った。
「付き合ってるんだよ、あの二人」
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