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序章
『この薬って、本当に僕の身体に必要なの?』
そう思うようになってから、どれくらい経つだろうか。
『じゃあさ、もう、薬だけで生きていける身体にしてよ』
その願いが叶ってから、どれくらいの人間を殺してきただろうか。
『ビー、ビー。クスリ、ノ、ジカン』
「はい」
白く冷たい床。
白く清潔な壁。
白くシワのないシーツ。
すべてが白。
自分の着物も白。
殺人鬼には似合わない色。
ベッドサイドには、銀のトレイが乗った棚がある。
銀のトレイの上、ビニールの小袋の束の中から、一袋、つまり一回分を、引き剥がし破って開けた。
何錠入っているかなんて、考えたこともない。
今更な気がする。
部屋に設置されたウォーターサーバから紙コップに水を入れ、その水で機械的に薬を喉に流し込む。
「飲みました」
『ヨイコ。ヨイコ。ビー、ビー』
部屋に流れる音声によって日常生活を縛られていることにボクは未だ気がついていなかった。
“良い子”って言いたいんだろうな。
それくらいしか働かない頭。
『キョウ、ノ、シンタイケンサ、ハ、アリマセ、ン』
聞き取りづらい音声にも慣れた。
自分が何年ここでこうしているかなんて数えていないけれど、たぶん、すごく長い間“ココ”にいる。
その間、知らされていないしよくわからないけれど、自分と似た背格好で、自分と似た着物の子どもを見ることはあった。
自分が“コドモ”だということは認識していた。
その子たちと目線が同じだったから。
皆、死んだような目をしていた。
自分もそんな風な顔つきをしているのだろうかと、少し考えたことはある。
“オトナ”の姿は見たことがなかった。
どれがコドモで、どれがオトナか、わかっていなかったからかもしれないけれど、その時はオトナの存在を知らなかっただけだったのかもしれない。
よく覚えていない。
皆、自分と同じように個室を持っていて、部屋に響く音声で指示されて生活しているんだと思い込んでいた。
だって、ここから出たことがないし、ちゃんとした教育を受けた覚えもない。
“ココ”がボクの世界のすべてだった。
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