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夜の灯火
夜警の足音が遠ざかったのを確かめて、ヘリット・ファンは家を出た。辺りには静謐が満ちていた。
さっき通った夜警によると、時刻は既に十二時を回っているらしい。町の警備のためか何かは知らないが、彼らは夜ごとに歌いながら歩くのだ。
(月はすでにてっぺんに
皆等しく寝る時間
時刻はもうすぐ十二時に
火事悪党にご用心)
お決まりの文句に妙な節を付けて、いつもならば眠りを妨げる害にしかならない彼らの声が今日初めて役に立ったとヘリットは感じた。
人の気配に気をつけながら、そろり、そろりと道を歩む。
この町を夜に出歩くなんて正気ではない。街頭が存在しない町では、今日のように月が陰っている日はもちろん、月が出ている日でさえ、手元がやっと見えるほどのあかりしか得られない。皆日々の暮らしにも困窮しているありさまだ。ランタンを買う余裕のある家などほんの数件だろうし、そもそもどうしても夜中に出歩かなくてはならない用事を抱えている者なんていない。もしいるとしたら、それは家の財産を食い尽くした盗賊か、辻強盗だ。その他迂闊にうろつく者は、皆そいつらの餌食になる。
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