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好きだ、好きだと思っているし、言ってもいるけど、それに説得力が持てないような気がするのは、相手が通話越しにいるからかもしれない。
私と彼は遠距離恋愛だ。私は東京で、彼は愛知で……毎日毎日通話していた。
だけど彼は二人きりでも特に愛をささやくというわけではなく、普通の友達のような会話がほとんどだった。
「それで、佳子ちゃんが怒って大変だったー」
「あー、あるよね。そんなこと」
「そうでしょー」
ネット恋愛なんて当てにならない。周りの友達はそう言う。ろくに逢わないし、通話ばかり。相手の顔だってろくに見ないんでしょ、何が分かるのって言うの?
そんなつまらないことを言わないでよ。私は思う。
私はこの人と出会って、感じてしまったのだ。「運命」なんて言わないけど、それに近い情動。この人以外、目に入らない、愛せない……と思うほどの強い感情。確かにさえない顔だ。頭も禿げるかもと言っていた。しゃべることもソシャゲの結果とかも多いし。ただ、彼は私を馬鹿にしない。
「春菜はどう思ったの? 春菜の感覚が聞きたいよ」
そう語る彼の穏やかな言葉に私はうっとりしてしまう。舞い散る桜に沈んでいきたくなるような、甘い感覚に頭がくらくらする。
「そういえば、連休がとれたんだ。そっちに行こうかな」
「え」
「ああ、でも一日は友人と遊びたいし……どうしようか」
「い、いいんじゃない?」
私に連休全てを使えなんてとても言えない。彼は友達が好きだ。友達と遊ぶときの楽しそうでへらへらとした顔が愛おしい。ああ、駄目ですね。恋って駄目です。いや私が駄目なのかな。彼の表情の一つ、一つを胸の中に収納したい。
誰かの喜びを我がことのように喜べる日がくるなんて、恋ってなんなんだろ。
私の細胞から作り替えていくのかな。私は手のひらで自分を扇いだ。
「で、で、いつ来るの!」
私は気が急いて、つんのめりながら声をかける。私の勢いが声で伝わったのだろうか、彼は小さく笑った。
「ええとね、二週間後かな」
「じゃあ! 休みとる!」
「でも連休全部は無理だよね。君の所、忙しいんでしょ」
「だとしても! 出来るだけもぎ取ってくるから!」
私がすぐに店長にメール連絡した。すごい速さだった。フリックの動きがこんなに速いのは初めてだ。まるで機械がボタンを高速で連打してるみたい。
「いやぁ、すごい熱かったよねぇ。ベタ惚れなんだね」
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