恋って、死んじゃいそう!

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 後に店長が呆れたように声をかけてきた。休みを三日取ったけど、本当はかなり無理な休みの取り方だったらしい。周りに迷惑をかけたと思う。でも、譲れなかった。バイトの責任より、お金より、私は彼との時間が何よりも価値があったんだ! 「むむむ……」  声が出た。私は今、彼と彼の友人とカラオケにいた。カラオケのデンモクを見ていたので、私の声は特に取り沙汰されなかった。曲がないと思われたのかもしれない。いや、そうではない。そうではないのだ。彼と私は今隣同士で座っている。でも彼の視線は別方向を向いてて、友人達と楽しそうに特撮ソングの良さを語っている。あまり私たちの関係は人に話してないし、私たちは外でベタベタ、いちゃいちゃ、と愛をはぐぐめる神経でもない。 「むむむ……」  私は唸るばかりだ。いや、彼が幸せそうなのはいい。それは本当に最高だ。ただ私の中で蠢く感情にもて余している。それだけなのだ。もっと私を見て欲しいな……なんて、絶対に口に出せないけど。でもそう思ってしまう自分自体がなんか嫌だった。彼と会えるのは半年ぶりだ。半年も会うのに耐えていた。その彼が横にいる、ああ、本当に見て欲しい。むしろ見たい、なんで友人Aみたいな感じで、横にいるんだろ。大好きと抱きつきたくなる衝動を必死に堪えている。  とんとんとテーブルの下に隠れた太ももを叩かれた。 何だろと思ったら、膝の上の右手がきゅっと握られた。一瞬だった。まるで疾風のようにぬくもりは去って行った。私が唐突な彼の行動に唖然とした。  目を丸くして、ちらりと彼を見た。彼は私を見た。目が合った。くしゃりと目を細めて彼は笑った。  脳味噌がとけそうだった。  頭の中で花火が打ち上がったみたいだった。  何だよ何だよ、彼も私に触れたかったのか、見てもらいたかったのか。  私たちは同じ気持ちだったのか。  私は顔が熱くなる。この赤くなる感じ、リトマス紙の変化より早いかもしれない。私はハッピーな恋の歌を歌うことにした。この幸せな、キマッちゃってる感じ、発散しないとどうにかなってしまいそうだ。  私はマイクを握る。立ち上がる。そして歌う、声を上げて、恋を歌う。  愛を叫ぶ。  ねぇ、神様、どうして恋をつくったの?  こんなに頭をお花畑になる激情、知らなかった。  恋に私は今振り回されて、踊らされて、幸せで。    もう、死んじゃいそう!
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