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「エリカ!」
友人の呼ぶ声。
エリカは我にかえる。
今の今まで見えていた光景は、夢か幻であったかのごとく綺麗に消え去っていた。
心配そうな顔でのぞき込んでくる友人へ、エリカはきょとんっとした表情を見せて、
「私……寝てました?」
と聞いた。
「寝てたの? なんか急に立ち止まって、ぼんやりとしてたから心配になっちゃって……」
エリカは曖昧に小首をかしげ、
「……最近、おかしな夢を見るんです。
寝ているのに、起きているような……まるで意識だけが別の場所に飛んで、まったく見知らぬ風景を見ているのです」
「なにそれ。今も、なにかを見ていたってこと?」
「ええ……」
訝し気な表情を浮かべる友人に、エリカはさっと事情を説明した。
話を聞いた友人はますます心配げな顔になる。
「……それ、ちょっと心配かも。
一度、病院行って診てもらった方がいんじゃない?
いや、肉体的なものじゃなくって、精神的になにかあるのかもって思って……」
あわててフォローしてくる友人。
その態度から、本当に自分のことを気遣って言ってくれているんだな、とわかる。
たしかに彼女のいうとおり、これは精神になんらかの異常を抱えているその結果なのかもしれない。
おかしいのだ。
どう考えても。
夢とはいえ、失ったはずの右眼で、なにかを見るだなんて。
しかも、それが、まるで現実のように感じるだなんて。
どう考えてもおかしすぎる。
「そう……ですね。帰ったら兄に相談してみます」
心配かけまいという気持ちが半分、それに、エリカ自身、自分が体験したことを完全には信じていなかったことも半分あり、今現在、唯一側にいる兄にすら、そのことを話していなかった。
そもそも友人に話したのもたんなる流れだ。
まさか歩いている最中に例の映像を見るだなんて思いもしなかった。
「そうね、それがいいと思う」
友人がそう返し、その話題は終わった。
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