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「本当に一人でだいじょうぶ?」
友人とのいつもの分かれ道。
「だいじょうぶですよ。
もし、歩いているときにまたさっきの症状が襲ってきても、今度は二回目です。
ちゃんと対応できます。
それに、一日になんどもあの症状が出るとは思えませんし」
それはエリカの本音だったのだが、
「でもぉ……心配だなぁ」
結局。
友人に、いつもの場所よりかはもっと先まで送られ、わかれることになった。
「じゃ、エリカ、ちゃんとお兄さんに相談するんだよ?」
「わかってます」
丁寧に頭をさげ、心配げになんどもなんども振り返る友人を見送ると、エリカはふたたび歩きだす。
ここから十数分ほどの場所に、今現在、エリカたちが住んでいる家がある。
ふるい街並みの通りだ。
家は町はずれにあり、進むごとにだんだんものさびしくなってゆく。
けれど今日は、なぜか、騒がしかった。
邸宅。
そう呼んでもさしつかえのない立派な家の前に、人だかりができている。
その輪の中心に、制服警官が立ち、野次馬たちをけん制している。
つま先立ちでのぞいてみると、鑑識の人間らしい、作業服の大人たちがあわただしくうごめいていた。
なにか事件があったのだろう。
自宅とは十分以上離れているとはいえ、近所といえば近所だ。
あまり気分がいいものでもない。
耳を澄ますまでもなく、野次馬たちの声が聞こえてくる。
「切り取られてたってよ……体の一部が……」
「ひっ……キリサ鬼……?」
「だろうぜ。模倣犯ってんでもなければな」
キリサ鬼。
まさかこの名を知らない者はいないだろう……いや、いるかもしれないが。
少なくともエリカは知っていたし、先ほどわかれた友人も、それにクラスメイトのほとんども、その名を知っていた。
この都市では現在、ふたつの大きな関心事がある。
ひとつは有名な資産家かが計画しているという内容不明のビッグプロジェクト。
その詳細は今のところまったくもって不明だが、なにかとんでもなく楽しいことになるだろうという空気が、人々の間で漂っていた。
こちらが良いほうの関心事だとすれば、キリサ鬼は、悪いほうの関心事だ。
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