一章

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 最近巷を騒がせている、この都市で犯行を重ねている連続殺人鬼。  ここ半年で、少なくとも十人以上が犠牲になったと言われている。  その最大の特徴が、体の一部を切り取り、持ち去ること。  殺した人間の体の一部を切り取り持ち去る連続殺人鬼。  ゆえに、キリサ鬼。  そう呼ばれるようになった。  名前のほったんはネットだとエリカは認識しているが、そのうちテレビや雑誌などでもその名が使われるようになり、今では近所のお年寄りでもその名を口にすることもあるぐらいだ。  今、一番、メジャーでホットな殺人鬼といえるだろう。  言ってどうする、という感じだが。 『キリサ鬼の恐ろしいところは、怨恨や金銭目的などといった、人間らしい感情が見えてこないところなんです。ふつう、遺体や殺人現場には、犯人の痕跡といったものが見られるものなんです。そしてごく普通の……といってはなんですが、一般的な殺人現場には、犯人の特徴なりなんなりが、ぼんやりとですが見えたりするものなんです。  ですがキリサ鬼にはそれがない。およそ人間らしい感情が見えないのです。そうですね……いうならば『人を殺すために人を殺している』みたいな感じですか。金のためでもなく、怨恨でもなく、愛憎のもつれでもなく……単純に、殺したいから、殺している。殺人のための殺人。そのような印象を私は受けますね』  とかなんとか。  以前、ワイドショーで、警視庁の元刑事とかいう男性が得意げに語っていた。  実際のところは一介の女子高生にすぎないエリカにはわかりようもないことだが……とにかく、近所でこういった殺人事件が起こったことにいい気持ちはしない。  人だかりをみまわしてみれば、浮かべるのは皆一様に、不安げな表情。  けれど。 「ねぇ、ままー、おなかへったー、おやつー」 「そうね。いつまでもこうしていてもしかたないわね、帰りましょうか」 「なぁ、行こうぜ」 「そうだな、帰って宿題やらなくちゃ」 「ま、俺には関係ないわな」 「ねー、そんなことより、今度私の両親にあってよねー?」  人々は、すぐに他人事であるかのように通りすぎ、日常にもどってゆく。  ……そんなものかもしれない。  自分が住んでいる町で殺人が起きた。  
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