第一章 自我を持った

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「……娘が!」  という声が、聞こえた気がしたが。よく覚えていなかった。  ただ、痛みを堪えて、無意識に体を起こすと。  ちょうど、坂道を勝手に転がっていったベビーカーが。  まるで悪魔に手招きされるかのように、スウウ~~ッと流れるような一直線の動きで、T字路の交差点に吸い込まれていき。  道路に飛び出して、トラックに轢かれるところであった。  鼓膜に突き刺さるような急ブレーキの音。  車輪に巻き込まれてグシャグシャに潰れるベビーカー。  運転手が降りてきて、パニくってオロオロとしている。  やがて通行人たちがワラワラと駆け寄ってきて、皆で車体の下をのぞき込んだり、スマホで連絡したり、写真を撮ったりと、大騒ぎになっていく。
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