理世と祖母

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賃貸の契約が終わると、後藤は「じゃ、月曜日から出勤してね」と言って、会社へ帰った 「これでもう、ここは貴女の部屋です、このまま住んで貰って構いませんが 引っ越しは、いつします?」佐倉は、部屋の鍵を渡しながら聞く。 「明日しようかと思っています」翌日は土曜日だった。 大した荷物は無い引っ越しは、直ぐに済むはずだが、9軒分の粗品を買い アパートの住人に引っ越しの挨拶もしたかった。 もしかしたら、留守の人が居るかもしれない、挨拶は、土、日で済ませ 月曜日からの出勤に備えたかった。 その時、携帯が鳴り、花江が「小川さんが、城田に行くって言うから、ついでに おまえの荷物を持って行く事にしたよ、もう城田に着いたから、道を教えて」と言う。 「ちゃんと契約出来たかどうか、確かめないうちに来るなんて、無茶な事を」 理世は、そう文句を言い、年寄りは、本当に気が短くて困るわと、ため息をつく。 直ぐに小川の車がやって来て「良い所じゃ無いか」と言いながら、荷物を降ろし 「この部屋なの」と、理世が開けたドアから、荷物を運び込む。 足が悪い花江は、理世に手を引かれ、慎重に車から降りて、部屋に入り あちこち見て「まぁまぁだね、西日が気になるけど」と言った。 「私も、それが気になったけど、ここしか空いて無かったの」理世はそう言って 「帰りはどうするの?」と聞いた「俺の用事は、もう済んだから、このまま帰れるよ」 小川がそう言うので「じゃ、部屋の片づけは明日にして、私も、一緒に帰るわ」 理世は、部屋に鍵を掛け、小川の車に花絵を乗せ、自分も乗り込んだ。 その夜は、社会人として出発する理世の為に、花江が五目寿司を作り、祝ってくれた。 「祖母ちゃん、一人になるけど、無理はしちゃ駄目よ」理世が花江を心配すると 「私は大丈夫さ、お前こそ、新しい所で暮らすんだ、いろいろ気を付けないとな」と言う 「気を付けると言えば、賑やかな城田には、地縛霊なんか居ないだろうと思ったのに ひき逃げされた男の地縛霊を見たわ、まだ、犯人が捕まっていないんだって」 「そうか、田舎より、人が多い都会の方が、浮かばれない霊も多いのかも知れないね しかし、そのひき逃げ犯、被害者の家族の怨みを受けて、酷い事になってるだろうよ」 「怨みを?」「そうさ、死んだ人の怨みより、生きている人の怨みの方が怖いんだ」
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