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夫となる満の事は、顔も知らなかったが、喜一が知っていて
「真面目で大人しい、良い男だよ」と言ってくれた事も、アヤメの背中を押したが
何より、早く片付いて、友達の親より年取っている両親を、安心させてやりたかった。
豪華な結婚式を挙げて貰ったが、翌日から、アヤメは目が回るような忙しさに
満と会話をする暇も無い程だった、次々に言い付けられる仕事は、朝早くから
夜遅くまで続く、家族は、両親と満だけだと聞いていたのに、出戻りの満の妹や
親戚に預けられていたと言う、満の弟が、いつの間にか帰って来た。
離れには、舅の年の離れた末っ子だと言う、叔父の史郎夫婦が住んで居たが
史郎の妻の逸美は、家事が全く出来ない女で、夫婦そろって三度の食事を食べにくる
アヤメは、この七人の食事の支度から、後片付けを一切させられるので
自分のご飯を食べる暇も無い、握り飯にしたご飯を、残ったおかずと共に
片付けをしながら食べる、それが終ると、家族全員の洗濯が待っている。
そして広い家中の掃除、買い物、その合間には、山や田んぼで働いてくれる人達への
お茶とおやつの用意、直ぐに夕方になる、風呂を沸かして夕食の用意だ。
家の前の畑の手入れから、田んぼの草取り、風呂で焚く薪運び
夜は帳簿付けに追われ、寝る時間は少ない。
驚く事に、姑も妹の睦子も居るのに、家事をするのはアヤメだけで、誰も何もしない。
それどころか、この七人が次々と用事を言い付けるので、一日中きりきり舞いだった。
古い家の所為か、何かと行事も多く、月始めの一日には、働いてくれる人全員に
お膳を出し、酒盛りをする、その支度や後片付けは、とても大変だったが
女達は手伝わない、その代わり舅の妹の次子がやって来て、手伝ってくれる。
次子は、この家族の誰にも似ないで、優しく、アヤメの唯一の相談相手になってくれた。
「この家の者は、皆、怠け者だろ、言い付けられた用事も、適当にやってれば良いんだよ
満も、父親の顔色ばかり見ていて、全く男らしく無いだろ?困ったもんだ」
等と、アヤメに言う、アヤメは分からない事や、困った事を次子には相談したが
自分の両親や喜一には、何も言わなかった、嫁は、こんな物なんだと思っていたし
折角良い所へ嫁に行ったと喜んでいる家族に、心配をかけたくなかった。
あっという間に二年が経ち、アヤメは男の子を産んだ。
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