祖母花江の話

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実家の両親は大喜びし、アヤメもしばらくは実家でのんびり出来ると嬉しかったが 一週間もしないうちに、帰って来いと言われた、アヤメがしていた仕事を 誰もしないので、家の中はぐちゃぐちゃで片付かず、食事も出来ず、電話番も居ないし 帳簿も付けられないので、藤兵衛の仕事も、お手上げだったのだ。 「あんまりだ、せめてもう一週間」と、母は引き留めたが、アヤメは遅くなればなるほど 自分の仕事が増えるだけだと知っていたので、帰って行った。 それでも、初孫が出来たと、父親は喜んでいたが、すでに癌で、あと半年の命だった。 本人だけは知らず、手術をしたから、もう良くなったと、思い込んでいた。 また、きりきり舞いをする忙しさに加え、子供の世話が増えたので、更に忙しい 子供は敦と名付けられたが、初孫なのに、舅も姑もあまり喜ばないどころか 敦が泣くと、真っ先に姑が「うるさい」と怒る。 アヤメは、敦を泣かせない様にと思っていたが、忙しくてろくに顔も見に行けない。 「どうして、お義母さんは、敦を抱かないのかしら?」アヤメが次子にそう聞くと 「あの人は、子供は産むだけで、育てないからね、子供を抱くとか 子供の仕事が泣く事だって知らないのさ」「ええっ、育てないって?」 「産まれた子は、みんな子供の居ない姉夫婦に育てさせたんだよ あの人は、家の中の仕事より、外の仕事の方が好きだからね」 いくらそうでも、自分の子供なのにと、アヤメは驚く。 いつの間にか家に帰ってきて、驚いた次男も、それまでは、姉夫婦の家から 学校へ行っていたそうだ、高校を卒業したからと、一度帰って来たが 今は、ちょっと離れた町の大学に行っていて、週末になると一週間分の洗濯物を抱えて 帰って来ては、遅くに起きて来て、もう片付けたのに、飯は?とか 出掛けるから洋服にアイロンを掛けろとか、靴を磨けとか、余計な仕事を増やす。 そんな忙しい中でも、アヤメは敦を負ぶい、50CCのバイクを飛ばして 町まで食事の材料を買いに行ったついでに、鰻や肉を買っては、父に届けていた。 「何時もすまないね、お陰で、だいぶ体力が付いたよ」そう言って 待ちかねていた敦を抱きとり「おうおう、良い子だ良い子だ」と、頬ずりする。 辛い事は、何も言わないアヤメに、忙しそうだが、幸せなんだと両親は思っていた。
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