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医者に宣告されていた、六カ月きっちりに、父は他界した。
母も兄も、何も手に着かない程悲しみ、葬儀の全ては
敦を負ぶったアヤメが取り仕切った、その様子を憐み、次子が手伝ってくれた。
何とか葬儀を終えた三日後、気落ちした兄は、また入院してしまった。
病院は完全看護なので、心配は要らなかったが、もう足が悪く
一人では歩けない母が心配だった「大丈夫さ、近所の人が良くしてくれるからね」
母は、そう言ったが、アヤメは、買い物ついでに、母の分まで買って持って行く。
「家のお金だろ?私の為に使って、大丈夫なのかい?」母は、そう心配したが
「大丈夫、私も従業員として、ちゃんとお給料もらってるんだよ」アヤメはそう言う。
ケチな藤兵衛は、帳簿付けをしたり、電話番をしてくれるアヤメも
従業員として、給料を出している様に帳簿には載せていたが、実際にアヤメに渡すのは
その半額程度だった、それでも、アヤメだけのお金だ、アヤメは自分の物は買わず
せっせと貯金したり、母の為に使っていた。
「旦那さんの給料の他に、お前にもお給料くれるのかい、じゃ、今度は
自分の為に使えるね」何も知らない母は、それも喜ぶ、雑貨屋で働いていた時は
給料を全部家に入れて、洋服や化粧品など、女の子が欲しい物も
ろくに買わなかったアヤメが、母は可哀そうでならなかったのだ。
そんなある日、藤兵衛は、森林組合の会合に、アヤメを連れて行くと言い出した。
会合とは名ばかりで、親交を深めると言う名の飲み会で、一泊する。
毎年の事なので、姑の浪は、その日の為に、洋服を新調していた。
「何で、アヤメなんだよ、アヤメが居なかったら、家の事は誰がするんだ」浪は
藤兵衛に食って掛かったが「組合の皆が、てきぱきと電話で受け答えするアヤメって
どんな嫁なんだ、見たいって言うからな」藤兵衛がそう言うと
「そりゃぁそうだ、姉さんみたいな年寄りより、若いって言うだけでも
アヤメの方が良いに決まってるさ」史郎が横から口を出し、浪はむっとした顔で
勢いよく障子を閉めて、どすどすと奥の部屋に消えた。
その日から、浪の機嫌は悪く、今まで以上につらく当たり「貧乏人の癖に」と言うのが
口癖になった、アヤメは困って、満に何とか行かなくて済む方法は無いかと相談した。
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