祖母花江の話

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しかし満は「お父さんは、言い出したら聞かないよ、それに、俺もお母さんが行くより アヤメが行った方が、皆の受けは良いと思うね」等と言う。 「一泊するのよ、敦はどうするの、貴方は、何も出来ないでしょ」 「次子小母さんか、実家のお母さんに預ければ良いだろ」満は、何でも無い様に言う。 「帰って来たら、仕事が溜まっていて、大変なのよ」「仕方ないだろ」 満は、アヤメが困って相談しても、いつも、その一言で片づける。 この人は、本当に私の事を妻だと思っているのだろうか、ただの従業員としか 見ていないのでは無いか、アヤメは嫁いで来てから何度もそう思った。 藤兵衛のお供は、思った以上に過酷だった、飲んで騒ぐ皆に、酒を注いで回ったり 一緒に来ている他の奥様方にも、愛想よく話を合わせたり 酔いつぶれた人を介抱したり、カラオケでジュエットを強要されたり 久しぶりに若い人が来たと、喜ぶ男達は、明け方まで放してくれなかった。 寝不足でフラフラしながら帰って来ると、二日分の仕事で追いまくられ 更に浪からは、山の様な仕事を言い付けられて、やっとの事でそれを終わらせ 敦を迎えに実家へ行ったのは、もう夕方になっていた。 藤兵衛は上機嫌で、夕食の時、アヤメが行ったので、皆が喜んだ話をして聞かせた。 浪の顔が険しくなる、おまけに、一緒に行った、他の奥様方から 「あんたの所のお嫁さんは、顔も可愛いが、よく気が利く、本当に良い嫁さんだね」 という電話が、次々に有ったので、益々機嫌が悪くなった。 そんな事には頓着せず、藤兵衛は、それから何処でも出掛ける時は 必ずアヤメをお供させる様になり、浪のアヤメいびりは、どんどんエスカレートし やがて睦子と結託して二人がかりで苛める様になった。 アヤメは、歯を食いしばって、それに耐える、味方になってくれる者は 家の中には、誰もいなかった、それどころか、満を始め男達は 自分がやりたくない仕事は、全部アヤメにさせる。 あっちの用事をしていると、こっちから「まだか」と急かされ、急いでいる時に限って 浪のアヤメを呼ぶ怒鳴り声が響く、アヤメは、身体が五つほど欲しいと思う。 そんな中でも、嬉しい事が有った、喜一が結婚したのだ。
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