祖母花江の話

6/16
前へ
/126ページ
次へ
兄の喜一は、体は弱かったが父に似てハンサムだった。 それに母譲りの優しさを持っていたので、病院へ入院すると ナースさん達から、ちやほやされる。 喜一は、そんな中の一人、奥田祥子と仲が良くなった、二人は結婚したいと思ったが 祥子の家は、母一人子一人だったので、母親は、嫁には出したく無いと言う。 それを聞いた寿賀子は「体の弱いお前が結婚するには、ナースの祥子さんでなくっちゃ 家なんかどうでも良いから、祥子さんの家に、婿入りしなさい」と、勧めた。 「それじゃ、お母さんが一人になる」喜一はそう心配したが 「大丈夫、足が悪いだけで、他は何とも無いんだ、ご近所さんも助けてくれるし 何より、アヤメが毎日のように来てくれるからね、何も心配要らないよ」 寿賀子は、唯々、喜一の身体の事が気にかかる。 寿賀子がそう言ってくれたので、喜一は祥子と結婚したのだった。 アヤメも大喜びで、貯めていたお金のあらかたを、喜一の結婚費用に使った。 「アヤメのお陰で、立派な式があげられたよ」母と、喜一は喜んでくれた。 喜一が居なくなって寂しいだろうと、アヤメは、前より頻繁に母の元へ通う。 それがまた、浪の怒りを誘い「お前は、どこの家の嫁なんだ」と、罵声を浴びせる。 それをひたすら我慢して、八年が過ぎた頃、アヤメは酷い喘息に悩まされるようになった 病院へも通ったが、なかなか良くならない、宍蔵の家の事情をよく知る医者は 「これはストレスが原因ですね、姑さんから、何か言われそうだと思った時 発作が出るでしょう」と言った、まさにその通りだった。 「いくら薬を飲んでも駄目です、良くなる為には、あの家を出ないと」医者はそう言う しかし、家を出る事は無理だった、藤兵衛は、帳簿付けだけでなく、自分が居ない時は 木を伐採する現場まで行かせて、材木の出荷の指図もさせていたし 浪が作る田んぼの殆どの仕事にも、アヤメの指図が必要になっていた。 それに、肝心の満が父の庇護のもとから、出て行ける訳が無かった。 それから更に二年、もう、アヤメの身体は我慢の限界を超えた。 一緒に家を出てくれと言ったが、案の定、満は首を縦には振らない。 仕方なく、一人で敦を連れ実家に戻った。 母は何も聞かず「暫くは、ゆっくり養生すると良いよ」と、優しく労わってくれた。 驚いたのは、宍蔵の一家だった。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加