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新しい生活
理世は「良かったら、荷物持ちましょうか?」と聞いた。
小母さんは、驚いた顔をした後「良いのかい?」と言う。
「はい」「じゃ、持ってもらおうかな、砂糖や大根など
重い物が多くてね」そう言って、荷物を理世に渡した。
確かに重かったが、理世にとっては、何でもない。
家に向かいながら「ここらじゃ見かけない顔だね」小母さんがそう言うので
「今日から、さくら荘で住む事になった、高科です」
理世は、自分の名前を告げる「そうなんだ、さくら荘にね~
じゃ、お隣同士だね」小母さんの家は、さくら荘の東隣の、平屋だった。
表札には「梅本富貴子」と、書かれている。
鍵を開けた小母さんは「時間が有ったら、寄って行かないかい
美味しいケーキが有るんだけど」と言う。
初めて会った人の家にと、ちょっと迷ったが、お隣同士になるんだからと
「はい」と言って、台所の冷蔵庫の前まで、荷物を運んでやった。
「私は、10年前に主人を亡くしてから、ずっと一人なの
だから、お客さんが来てくれると、嬉しくてね~」
富貴子と名乗った小母さんは、にこにこしながら、ケーキと紅茶を勧める
そして「さくら荘と言う事は、学生さん?」「いいえ、八幡部品と言う
会社に、勤める事になって」「ああ、深沢ちゃんの所ね」
理世に、みなまで言わせず、富貴子は納得した。
富貴子は、八幡部品の社長、深沢と佐倉とは、幼馴染の仲良しなんだと
理世に説明し「会社でも、アパートでも、何か困った事が有ったら
私に言うと良いよ、二人に掛け合ってやるからね」と、頼もしい事を言う。
そして「何号室に入ったの?」と、聞く。
「はい、201号室なんです」台所のレースのカーテン越しに
さくら莊が見える、その二階を指差して、理世が答えると
「201だって?」富貴子の顔色が変わり「何でまた」と聞く。
理世が、201になった訳を話し
「そこしか、もう空き部屋は無いようです」と言うと
「そう?じゃ、仕方無いけど、何か有ったらすぐ私に言うのよ」と言う。
「何かって?」理世は、不安になって聞く。
「今まで、201号室に入った人は、皆、気味が悪いって、出て行くの
特にこれっていう事は無いそうなんだけど
何だか、誰かに見られている気がするんだそうだよ」「ええっ」
驚く理世に「実はね~あの部屋で子供が死んでるのよ
それまでの持ち主は、深沢ちゃんだったけど
こんなアパート、もう手放したいって、売ろうとした時
佐倉ちゃんが『じゃ、俺が買うよ』と言い出してね
格安で譲って貰い、全室リニューアルしたのよ」
話し好きな富貴子は、良く喋って、なかなか帰してくれなかった。
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