祖母花江の話

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祖母花江の話

「生きている人の怨み?」「そうさ、お前も知ってるだろ、アヤメ小母さんを」「うん」 花江の親戚にあたる人で、法事や祝い事などが有る時に見かけるが いつもてきぱきと働く姿が、印象的な人だった。 アヤメの母、寿賀子は、男の子を一人産んだ後、いくら待っても次の子が出来ず もう、産まれないのだと諦めていた40過ぎに、ひょっこり子供を授かった。 生まれたのは、家の前にアヤメが満開の時で、可愛い女の子だった事から 名前はアヤメと付け、たいそう可愛がって育てた。 アヤメの兄、喜一は、病弱な父親に似たのか、身体が弱かった。 夫と息子が交代するように入院したり、寝込んだりするので、家は貧乏だったが アヤメは、病気一つせず、学校の成績は優秀だったが、家が貧乏だったので 高校へは行けず、隣町に唯一有る、雑貨屋に店員として勤めた。 その雑貨屋は、生活雑貨の他に野菜や魚などの生鮮食品や、酒や米や灯油 運送会社が持って来る品の配達等、配達する品も多かったが アヤメは、順序良く家々を回り、てきぱきと配達を済ませる。 店主は、アヤメの頭の良さに驚き「何でも出来るな~帳簿付けも出来るんじゃないか」と 帳簿のつけ方を教えたが、アヤメは直ぐに覚えて、毎月の収支だけでなく 店主が毎年、頭を悩ませる、税務署に提出する書類迄 難なく書き込んでさっさと提出する。 「この子は凄い」店主は、良い子が来てくれたと喜んだ。 誰にでも、気さくに優しい言葉を掛け、年寄りの話も面倒がらずに良く聞いてやり 重い物を買ってくれると「家まで持って行くよ」と運んでくれる アヤメちゃんは、本当に良い子だよと、町中で評判だった。 その評判を聞き、自分の目で確かめた宍蔵藤兵衛は、息子の嫁にしたいと言って来た。 宍蔵と言えば、その町一番の資産家で、いくつも山を持ち、大々的に林業を営み 家の前の千枚田と呼ばれる棚田では、沢山の米が取れる農家でも有った。 そこへ、街で一番の貧乏な家のアヤメが嫁に行く。 父親も喜一も、玉の輿だと、アヤメの幸運を喜んだ。 雑貨屋の店主も「残念だけど、アヤメちゃんの幸せの為だ」そう言って 店を辞める事を許してくれた、母だけは「あまりにも身分が違い過ぎる 大丈夫だろうか」と言ったが、周りの祝賀ムードは、そんな心配をもかき消した。 アヤメは、父の言葉に従い結婚する事を決めた。
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