奇跡の泉

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奇跡の泉

 暗い暗い森の中、傷だらけの化物がさ迷い歩いていた。  人間のような姿だが頭に角が生えており、爪は鋭く刃物のようだった。黒くて固い(うろこ)に覆われた翼と尻尾は、力なくだらりと垂れ下がり地面を擦っている。  一歩進むたびに血が体内から溢れ流れていく。朦朧(もうろう)とする意識のせいで真っ直ぐに歩くことすら出来ない。それでも、今立ち止まったら死しかないという事を化物は分かっていた。  とうとう足が体を支えきれなくなり、化物は崩れ落ちた。強烈な眠気が化物を襲う。少しでも気を緩めたら失神してしまう。死んでしまう。化物は地面を這うように進んだ。進むべき方向など化物には分からなかった。それでも、進んだ。  体はどんどん重くなり、自分が今何をしているのかもよく分からなくなってきた。もう、駄目かもしれない。化物は目を閉じようとした。  ふわりと風が吹き、化物の鼻を独特な匂いがかすめる。化物は閉じかけた目を見開き、最後の力を振りしぼる。もう動かなくなった足をズルズルと引きずりながら、匂いの元へと進んだ。  そこは小さな洞窟だった。岩だらけの入り口から、下へと向かって続いている。中に入るとすぐ洞窟の突き当りが見えた。突き当りは一番低くなった洞窟の底で、水が溜まっていた。  不思議な事にその水の溜まった周辺は、洞窟の奥にも関わらず明るかった。群生するアシやシダなどの植物も、青白い光の中で良く見えた。  化物は滑り落ちるように水に近づいた。フカフカに密集した苔とシダが化物の体を受け止める。化物が手で水をすくう。水自体が青白く発光していた。洞窟の底にあった水は、森の奥深くに稀に湧くと言う奇跡の泉だった。  その泉の水は多少薬臭いが、どんな怪我や病気も治してしまう。噂に(うと)い化物でも知ってるほど有名な言い伝えだった。  化物はカラカラな喉に泉の水を流し込んだ。水は体内に染み渡り、痛みが少し和らいだ。  あぁ、助かった。そう思った瞬間、化物は意識を失った。
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