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二人は庭に植えた野菜や飼い始めた鳥の卵で、何とか飢えをしのいでいた。たまに森の中で魚を捕ったりもしたが、森には獣がいるためそう何度もは行けなかった。
ある日、妹が毒を受けた。森の中で手をかけた所に毒蛇が居たのだ。妹の目はあっという間に見えなくなり、体は日に日に衰弱した。兄はふと両親が生きていた時の事を思い出した。父親が一度だけ持ち帰ることに成功した奇跡の泉の水。兄は藁にもすがる思いで、水を汲みに森へ入った。
そこで日記は終わっている。
時が経ち、随分と動けるようになった化物は洞窟を出た。いざという時の為に、男が持っていた鞄の中に泉の水を入れた瓶を三本詰め込んで持ち出した。
久々の外は、化物には見覚の無い場所だった。だいぶ遠くまで逃げて来てしまったようだ。化物は辺りを確認しながら森を進む。森には日記に書かれていたような獣の気配は無かった。獰猛な獣は天敵には敏感で、化物を嫌がって居なくなってしまったようだった。
半日近く歩いた化物は、魚の沢山居る川を見つけた。化物は久しぶりの食事に夢中になった。一匹、二匹と魚を捕まえていると、ガサガサっと低木を揺らす音がした。
人間の少女が立っていた。
化物は水しぶきを上げながら飛び跳ね、少女に突進した。騒がれる前に殺さなくては。人間に対する怒りもあったが、今は恐怖の方が強かった。鋭い爪が少女の首に当たる寸前、化物は気がついた。
少女の目は何にも焦点が合っていなかった。よくよく見れば、鞄に入っていた写真と同じ顔をしている。
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