奇跡の泉

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 「誰かいるの? 兄さん?」  少女は見えない目で辺りを見回す。化物は少女を見ながら考えた。日記を読んだせいか、その少女には直ぐに殺せないくらいの情があった。  「いや、旅の者です」  化物は人間の声真似をした。  「まぁ! この近くには獣が沢山居るのよ。お怪我はありませんか」  少女は困惑したような声で訊く。  「少し怪我はありますが、大丈夫です」  化物は、特に考えずに本当の事を言った。すると少女は驚いたように返した。  「ここの獣はとても凶暴なんです。一人で、ましては怪我のある状態では危険すぎます。せめて怪我が治るまでは家で休んでいってください。」  少女が化物に触れようと手を伸ばす。その手が化物の翼に触れそうになり、化物は慌てて離れた。  化物はまた考える。日記では他に人間は居なかったはずだ。それに人間達から隠れるには、人間の家の中は都合が良いのではないか。化物は少女の提案を受けることにした。  「この辺りには私と兄しか住んでいないの。村まではずっと遠いんですよ」  少女は喋りながら腰にくくった紐を引っ張る。目の見えない少女にとっての道しるべだった。紐を探りながら歩く少女に付いて行くと、みすぼらしい家に着いた。
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