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出来上がったスープには、豆が数個入っているだけだった。色も薄く、匂いもほとんどしない。
「ごめんなさい。こんなものしか無くて」
「いえ、こんな誰とも知らない者に食事を出してくれるだけで有り難いです」
化物は食べた事の無い温かいスープで、舌を軽く火傷した。
翌日、化物は家のすぐ外で物音がしたのを聞いた。行ってみると少女が転んでいた。少女は転ぶことに慣れているようで、気にせずそのまま歩いて行ってしまった。気になった化物が後を追うと、少女は庭の畑に座りこんでいた。
植えられている葉物野菜は今にも枯れそうで、果菜はほとんど実を付けていなかった。生き生きとしているのは、砂地でも生える図太い雑草くらいだ。
少女はため息をつき、雑草を一本一本確かめながら抜いていた。
昼頃、少女は卵を一つ持って家の中に戻ってきた。少女はその卵を茹で、化物に差し出した。
「君は食べないのかい?」
化物は驚いた。人間は強欲なものとばかり思っていた為、たった一つの卵を自分の物にしない少女の行動が理解できなかった。
「私はお腹すいていないから」
そう言う少女の体はやせ細っていた。もう、この家の食料は尽きかけていた。
草取りで疲れたのか、少女は玄関前の椅子に腰かけ居眠りを始めた。化物は外に出て家の周辺を散策してみた。少女の話の通り険しい崖があり、それに沿って歩くと滝が現れた。滝つぼで魚を捕り持って帰ると、ちょうど目が覚めた少女がとても喜んだ。
少女は魚を持って台所へ向かったが、直ぐに化物の元へ戻ってきた。
「魚が焦げないように、焼くのを見ていてくれませんか」
化物は火が怖かったが、断ると不審に思われるのではないかと思い引き受けた。しかし化物は魚を焼いた事など無いので、よく分からず結局焦げてしまった。化物には焼けた魚は不思議な味だったが、少女は「おいしい」と言って食べていた。少女にとっては、久々のまともな食事だった。
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