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夜中、化物は夜風にあたっていた。ふと、畑に目が行った。土はパサパサにやせ細り、畑としての役目を果たせていなかった。この畑はもう少女一人すら養えないのだろう。
ふと化物は思いついた。家の中へ一度戻り、持ってきた鞄から泉の水を入れた瓶を一つ取り出す。
化物は瓶の水を畑にまいた。
「昨日雨でも降ったのかしら。畑の野菜が元気になったの」
少女は嬉しそうに畑の様子を化物に話した。畑は数日をかけ沢山の野菜を実らせた。
スープの具材も増え、腹持ちもよくなった。温かい食べ物を知らなかった化物も、すっかり慣れてきた。
少女が鼻歌交じりで畑の手入れをしている間、化物は家の中を整理していた。少女がよく落ちている物につまずいて転ぶからだ。床に落ちている物や廊下に積んであった荷物を、使っていない部屋運ぶ。一通り運び終わり一息つくと、部屋の端に古い箱があるのに気が付いた。
何気なく中を覗くと微かに焦げ臭い匂いがした。中にはススだらけの衣類や装飾品、それと黒くなったノートが入っていた。
薄汚れたノートには、恨みの言葉が掃き溜めのようにびっしりと書きなぐられていた。ゆるさない。殺してやる。皆の仇を討つ。あの化物に復讐を。少女の父親が書いたものだった。
少女の家族は火を吹く化物に村を滅ぼされ、全てを失っていたのだ。
化物はもやもやとした気持ちになった。もちろん別の化物の仕業なのだが、少女と出会うより前に人里を見つけていたら同じ事をしていたかもしれない。そして襲われた人間は、別の化物を仇と言って襲うのだろう。同じ事の繰り返しだ。果てが無い。
それよりも化物が気になったのは、もし少女が自分の正体を知ったらどう思うのかだった。化物は言いようの無い不安に襲われた。
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