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日が傾きかけた頃、慌てた様子の少女が血まみれの動物を抱えて庭から戻ってきた。化物はとうとう犬を見つけてしまったのかと思ったが、よく見ると違う生き物だった。
「兄が仕掛けていた鳥よけに絡まっていたの。大変、こんなに弱って……」
動揺する少女は床板の僅かなささくれにつまずいた。倒れる寸前に、化物が少女を受け止めた。
少女はタオルを敷いた机の上に動物を寝かせ、桶に水を汲み、恐る恐る手探りで傷口を探した。動物を介抱する少女に、化物は言いにくかった事実を伝える。
「それは獣だよ。君たちが恐れる、人食いの獣の幼体だ」
まだ人が持てる大きさだった為か、少女は犬と間違えていたのだ。
少女は獣から手を放し、数歩後ろに離れた。少女にとっては家族の仇だ。ピタリと動きを止め考えている。暫くして少女は言った。
「それでも見殺しには出来ないわ」
少女はつきっきりで獣の看病をした。体を拭いて清潔を保ち、栄養のある卵を与えた。獣は口を開き食べようとはするが呑み込めず、だらりと口から流れ落ちた。少女の励ます声も、獣に届いているとは化物は思えなかった。
深夜、少女は疲れ果て獣の横で眠っていた。化物は少女に毛布をかけるついでに、獣の様子を見た。呼吸は弱弱しく、いつ止まってもおかしくない様に見えた。
化物は考える。少女は両親を失い、兄も犬も死んだ。もう一人きりだ。もしこのまま獣まで死んだら、少女はとても悲しむのだろう。
化物は鞄から二つ目の瓶を取り出した。
朝、少女は獣に顔をペロペロ舐められて起きた。
「良かった。元気になったのね」
ポロポロと涙を流しながら笑う少女を見て、化物はほっとした。
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