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「あ、あのねおさむくん。信じてもらえないかもしれないけど、夜に赤ちゃんの声が聞こえたの。それと……昨日、床に落ちてたガラガラも、私じゃないの……」
やはりそうか。昨日、好美は誤魔化したようだけど、普段とはちょっと違う様子だった。親しい人じゃなきゃ分からないような変化だが。
「じゃあ、寝言も?」
「うん……最初はおさむくんの寝言だと思ったんだけど、すぐに違うって気付いたの。おさむくんに揺さぶられるまで怖くて……」
ついに好美にまで聞こえるようになってしまった。本当は昨日からだったけど、いよいよなんとかしないといけない。このままではまた流産してしまう。
「それでね、どこから聞こえるんだろうと思って、勇気を出して姿を探したの」
好美の話はここで終わらなかった。なんと僕でさえ怖かったのに、正体を探ろうとしたのだ。彼女の勇気には恐れ入る。
「で……どうだった?」
「あそこの箪笥に白く光っている赤ちゃんがいたの。上にあるガラガラを取ろうとしてたんだと思う」
「赤ちゃん見たのか!?」
「うん。箪笥の取っ手を掴んで登ろうとしてた。でも、取れなくて……消えちゃった。それで、呆然としてたら急に布団の上に現れたの。私びっくりしちゃって……思い切り足で蹴り上げて……そしたら……」
「大丈夫、僕が側にいるから」
「蹴ったら、赤ちゃんの体がグチャって潰れて、目が……恨みがましい目が私を見たの」
話していると思い出してしまうのだろう。時々、呼吸が早くなり、この世の終わりだとでも言うように震えだす。僕はそんな好美を安心させるように声をかけ、背中を優しく撫でる。
「……好美、実は僕も数日前から赤ちゃんの泣き声を聞いてたんだ」
「おさむくんも?」
言うならこのタイミングしかない。安心させるためには、好美だけじゃないと言ってあげることが大切だ。人は一人だと不安や苦しみに苛まれるが、二人だと分かち合える。
「顔色がすごい悪かった日があっただろ? あれ、夜中に聞いた声が原因だったんだ。あの時は声だと思わなかったけど、次の夜にはハッキリと赤ちゃんの声だと分かったよ」
「そっか……何でこんなことになっちゃったんだろ」
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