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「わ、ど、どうしたの」
「好美! ガラガラ捨てるぞ!」
「えっ、やっぱり変なやつだったの?」
「ウソかホントか分からないけど、珍しい物や曰く付きの物を売ってる人から貰ったらしい。霊が憑いていてもおかしくない」
そう言ってすぐ寝室へ行く。箪笥の上に置いてある段ボールをリビングへ持って行き、ガラガラを取り出す。これさえなくなれば大丈夫だ。燃えないゴミの袋に投げ入れて、出てこないようぎゅっと縛る。
ついでに段ボールも捨てよう。捨てる予定の段ボールに重ねて、テープでしっかりまとめる。あとは外の物置に置いて、回収日に出すだけだ。
「家からなくなったからもう大丈夫だよね?」
「うん、だからそんなに不安がることはないよ。いつも通り、明るく過ごそう」
好美はまだ不安のようだが、元凶をなくしてしまえば心霊現象に悩まされることはない。
明日から普通の生活に戻れるんだ。
しかし、その期待は打ち砕かれてしまった。
――パパ
深夜。声が響く。
ガラガラは物置にあるのに、どうして部屋の中から声が聞こえるんだろう。
僕の疑念は尽きない。
昨日はこんなにはっきりと言葉を発していなかった。しっかりと話せているのは何故か。
予想外の事態に戸惑っていると、顔に冷たい何かが降りかかってきた。ペタペタと何回か叩かれ、おもむろにぎゅっと両頬をつねられる。
これはおそらく、手だ。赤ちゃんのような小さい手。瞼を閉じていなかったら指先が目に入っていたかもしれない。
――ママどうして
気配が消える。ママとは好美のことだろうか。
助けに行きたい。
でも、幽霊を見てしまうかも、襲われるかも、死んでしまうかも。恐ろしくて動けない。
僕にできるのは朝まで耐えることだけ。情けなくて、最低な話だが、自分の命が惜しいと考えてしまう。今にも好美は襲われているかもしれないのに。
隣のベッドからは何も聞こえない。いっそ「助けて」って言ってくれれば、僕は立ち向かえるのに。できもしないのに、ヒーローみたいな自分を想像する。滑稽だ。
結局、僕はベッドの中で近寄らないでくれと祈り続けた。その願いが届いたのか、朝まで襲われることはなかったのだが、後悔の念だけはいつまでも残り続けることとなった。
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