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 別に期待していたわけではない。  ――その、はずだ。  牧田エリはとっさに上を向いた。そうしなければ涙がこぼれてしまいそうだった。  いつもの大学の帰り道、一人でいきなり上を向いたり歯を食いしばったりして、他の学生に見られたら奇妙に思われてしまう。  涙を堪えた目はひどく痛んで、夕日の優しい光もいまは胸に痛い。 (バッカみたい)  何を期待していたんだろう。わかっていたはずなのに。  バイト代をためて買った、通学用には高価なバッグの中で、どこでも買える一枚数十円のクッキーが虚しく転がっていた。  エリが同じ学科の塚田ヒロを意識しはじめたのは、大学に入ってすぐのゴールデンウィーク後ぐらいの頃だった。  大型連休のあと、長い休みの余韻に引きずられて大学をさぼりはじめる者も多く出てくる中、ヒロはきっちり講義に出ていた。  エリはいわゆる大学デビューをしたタイプで、高校生までかなりの真面目な学生だったから、大学に入ったからといってはめを外しすぎず。真面目に講義を受ける学生というのはそれだけで印象がよかった。  ヒロは決して美男子や伊達男ではなく、かといって隣を歩くのは遠慮したいようなタイプでもなかった。     
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