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かすりの祖父母の家のお風呂は広い。
浴槽は昔ながらのステンレスで新聞紙を広げた位のサイズだけど、洗い場はその4倍くらいあって、シャワーとカランがセットのものが一つある他に水道の蛇口が一つあり、まるで狭い温泉旅館のようだ。
かすりはタイル張りの昭和風のこのお風呂が気に入っている。
浴槽に浸かって目を瞑ると、ふと祖母の悲しげな顔を思い出した。
かすりが祖母を『お母さんのママ』と言うと時々悲しげな顔をするのだ。
いつまでもそう呼ぶわけにはいかない。
それはわかってる。
増してかすりの母が駆け落ちしてそのまま実家と疎遠だった事を知らない会社の人たちが本当にこの家に遊びに来るなら、それまでには呼び方を変えなきゃいけない。
わかっているけど、かすりには勇気のいる事だった。
「おばあちゃん……。」
小さな声で一人言ってみる。
そして恥ずかしくなってその言葉を消すように顔に勢いよくお湯をかけた。
「ああ……どうしよう……。」
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