3102人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはようございます。」
「おはよう。
よく眠れたかい?」
「はい、ぐっすり寝ました。
もう雨はすっかり止んだんですね。」
「そうだね。
今日はよく晴れてるから、もう少ししたら畑に野菜を取りに行ってくるよ。
濡れてるかもしれないけど食べるだろ?」
「はい、いただきます。
私も一緒に行ってもいいですか?」
「じゃあ今長靴出してくるから。」
「すみません。」
この辺は梅雨の時期にできる野菜は少ないと祖母は言ったけど、それでもネギとサヤインゲン、アスパラガス、それから前に採ってあったジャガイモ、キュウリを採って、もう終わりだという筍を少し掘った。
明日はお弁当に筍ご飯を入れよう。
かすりは頭の中で明日のお弁当をイメージした。
筍ご飯と、サヤインゲンと魚肉ソーセージを炒めたもの、それから……卵焼き。
あと何か一品冷凍してあるものを入れよう。
明日は阿部さんお弁当食べるかな?
かすりの考えが伝わったのか、スマホが鳴って阿部から
『明日もお弁当お願いします』
というメッセージが入った。
かすりはなんとなく嬉しくなってつい頬が緩む。
「何かいい事あったかい?」
かすりの表情を見逃さなかった祖母がすかさず聞いてくる。
「いえ、そういう訳じゃないんですけど、会社で私が作ったお弁当を美味しいって言って食べてくれる人がいて、その人から明日もお弁当を作って来てっていうメールが来たんです。」
「かすりがその人の分作ってるの?」
「はい。
仕事の都合で毎日ではないんですけど、作った日は材料費で300円もらって、その他に月に一回美味しいご飯をご馳走してもらう約束なんです。」
「ふぅん。
それって、男の人?」
「はい。
一人暮らしなんで、お昼とかひどいんです。
コンビニのパンとおにぎりって組み合わせを平気で毎日してて……。」
「それは酷いね。」
「でしょ?
だから喜んでくれるならってお弁当を作り始めたんです。」
「いい人なの?その人。」
かすりはなぜ祖母がそんな質問をしたのかよくわからなかったけど、即座に答えた。
「はい。
いい人です。」
かすりが嬉しそうに答える姿を見て、祖母は心底安心したようだった。
「あの時の貴美子もそんな顔をしてたね……。
あの時、良かったねって言ってやれば良かったのに……。」
祖母はかすりの耳に届かないくらい小さな声でそう言って、背中を丸めて家の中へ入っていった。
最初のコメントを投稿しよう!