キラキラバナナパフェ

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「あれ? 今日は一緒に食べに行ったんですか?」 「ううん。 そこで会ったの。」 莉子は駐車場を指さした。 「草餅持って来たんで良かったらどうぞ。」 「うわーーー。 俺もいいっすか?」 「もちろん、どうぞ。」 「どうせこぼすんだからこれ敷いて。」 莉子は五十嵐にティッシュを渡して、自分も下にティッシュを敷いた。 「草餅作れるなんて凄いね。 私の中でお餅は作るものじゃなくて買うものだわ。」 「祖父母の畑でヨモギが沢山採れるんですよ。」 「採れたって私は作れないもん。」 「作り方自体はそんなに難しくはないんですけどね。」 そんな会話をよそに、阿部と五十嵐は草餅に夢中になっている。 「かすりさん、店出せばいいのに。」 五十嵐が感心したように言う。 「イヤ、無理だから。」 かすりは苦笑した。 「無理じゃないっすよ。 かすりさん割烹着来てカウンターに立ったら繁盛しそうっすよ。」 「うん。 いいね。 俺なら毎日行くな。」 阿部ボソリとつぶやく。 「無理ですよ。 すぐに潰れますから。 それに商売になると真剣に作らなきゃいけないから嫌です。 もともと料理が好きなわけじゃないから、適当に作るのがいいんです。」 「えっ? 好きじゃないんすか?」 「うん。 別に嫌いじゃないけど、必要だからやってるだけだよ。」 「こんなに料理うまいから絶対料理好きだと思ってた。」 阿部も莉子もうなずく。 「私の味付けは多分母の味だと思います。 ちゃんと教わったことは無いけど、ずっと食べてるものと同じ味付けになるじゃないですか。 あとはやっぱりお母さんに少しでも美味しいものを食べて欲しいって思って頑張って作ってたからかな……。」 「かすりさんが料理作ってたんスか?」 「平日はだいたい私が作ってたかな……。 お母さん、仕事で帰るのがだいたい8時くらいだったから。」 「すげー。」 「それっていつ頃から?」 「小学校高学年くらいから。」 「ホントに偉いわ。 私なんてその頃お手伝いすらしなかったもん。」 「凄くなんてないですよ。 最初は失敗ばっかりだったし、それに、そうする事が私にとっても母にとっても最良だと思ってやってただけだから料理が好きかなんて考えたこともなかったです。」 「子供の頃からお母さんの帰りが遅かったの?」 阿部が質問する。 「はい。 亡くなるまで勤めた会社に入ってからはずっとそうでした。 土日が休みで私と一緒に過ごせるからってその会社を選んだみたいですけど、入ってみたら残業が多かったらしくて。」 「じゃあかすりちゃんは学校から帰ったらずっと一人?」 「はい。」 「寂しかったね……。」 阿部にしみじみと言われて不思議な気持ちになる。 かすりにとっては一人で母を待つことが当たり前だった。 もちろん寂しいと思った事もあるけど、かすりが寂しいと知ったら母が困ると思ってそんな感情はずっと昔に心の奥にしまっていた。 「慣れましたよ。」 かすりはそう言って笑った。 そんなかすりを阿部はじっと見つめていた。
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