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「阿部さんて一人暮らしですよね?」
「そうだよ。」
「自分でご飯作らないんですか?」
「作らないね。」
阿部はおしぼりをいじりなら答えた。
「どうして?」
「元々器用じゃないし、ちゃんとした食事を家で一人で食べてるとさ、なんか一人だって事を痛感させられるっていうか、突きつけられるっていうか……、なんかヤなんだよね。」
「ああ、少しわかるかも。
前に料理が好きかどうかなんて考えたことないって言いましたけど、作ったものを誰かが食べてくれると思えば嬉しいし美味しく作ろうって思うんですけど、自分一人で食べるためだけに作る時はやっぱり機械的に作ってる感じだし、出来上がったものを食べる時にはやっぱり一人だな……って思います。
別に寂しいわけではないんですけどね。」
かすりが水の入ったコップに手を伸ばすと、阿部はおしぼりをクルクルと巻きながら、
「俺は寂しいな……。」
とつぶやいた。
意外な一言にかすりはなんと返事していいかわからずにコップの水を飲むでもなく、ただただコップを握りしめている。
「なんてね。
ハハハ。
この年で寂しいとか恥ずかしいよね。」
阿部がそう言ってごまかそうとするから余計にかすりは返事に困ってしまう。
「かすりちゃんは強いね。
だけど、一人を実感するって事は少しは寂しいんじゃないかな?
かすりちゃんは我慢強いから気づいてないだけで。」
「そうなのかな?
小さい頃から母は留守がちだったから一人には慣れてるんですけど……。
気の合わない人と一緒にいるよりは一人のほうが楽だし。」
「確かに、それはあるよね。
だけど一人に慣れてるから平気ってことでも無いと思うけど。
かすりちゃんみたいなタイプは寂しいと感じたときには重症になってたりするから、無理しないで少しでも寂しくなったら誰でもいいから誰かに声かけた方がいいよ。」
「『私、寂しいんです』って?」
それを聞いて水を飲もうとしていた阿部がブッっと吹き出しそうになった。
「その言い方はマズイな。」
「そうですか?
じゃあ、私と遊んでください?」
かすりが少し笑うと、阿部はそれに気づいて、
「わざとか。
びっくりした。
かすりちゃん本当に言いそうだから……。」
そう言って背もたれに体を預けた。
「まさか。
さすがにそんな事言いませんよ。」
二人で笑っていると、煮込みハンバーグとオムライスが一緒に運ばれてた。
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