キラキラバナナパフェ

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かすりが煮込みハンバーグを食べ終わる頃にバナナパフェが届いた。 「かすりちゃん、まだ少し食べられる?」 「え?」 「実はこれ、かすりちゃんに頼んだんだ。 もしもう入らなければ俺が食べるけど……。」 かすりはバナナパフェを前に一瞬言葉が出なかった。 かすりにとってデザートは生きていく上で必ずしも必要というわけではないから、おそらくずっと縁のないものだと思ってた。 「甘いの嫌いじゃないよね?」 「はい。 でも……いいんですか?」 その言葉を聞いて阿部の顔が明るくなった。 「良かった。 かすりちゃんに何か食べてほしくて頼んだんだ。 かすりちゃんは遠慮して頼まないだろうからさ。」 「すみません。 ありがとうございます。」 阿部はバナナパフェをかすりの前に移動する。 大きめのパフェ用の器に斜めに長めに切られたバナナが周りに沢山飾ってあって、生クリームとバニラアイスが半々位の割合で入っているシンプルなバナナパフェを前にかすりは昔を思い出した。 「昔、まだ小さい時に一度だけバナナパフェ食べた事があるんです。」 阿部はコーヒーを片手に話を聞く体制に入った。 「私の母は普段とても質素な生活をしていて、そんな母を見ていたから本当にたまに何か用があって外食する時もデザートなんて頼んじゃいけないと思ってレストランではできるだけ安いご飯だけを頼むようにしてたんです。 今思うと可愛げがないとも思うけど、母の負担にはなりたくなくて……。 ある時、デパートに連れてかれたんです。 初めてのデパートですっごく嬉しかった。 お昼に屋上のレストランでうどんを食べたんです。 お子様ランチとかハンバーグが凄く美味しそうで、今まで見たこともないバナナパフェがメニューに写真付で載ってて、見てるだけで楽しかった。 でもお母さんがうどんを食べるって言ったから、私も同じにしたんです。 うどんを食べ終わったらバナナパフェが運ばれてきて、私は店員さんが間違えたんだと思って、食べる事が出来ないバナナパフェを見つめていたら母がそれを私の前に置いて『食べていいよ。』って言ったんです。 私、嬉しくて……。 その時本当にバナナパフェがキラキラ輝いて見えたんです。 うちでいつも食べるバナナみたいに柔らか過ぎないバナナは美味しいし、バニラアイスだって多分まだ食べたことなかったし、生クリームも家で誕生日に作ってくれるケーキのクリームとは全然違くて、とにかく凄く美味しかったんです。」 「それはお母さんが頼んでおいてくれたの?」 「はい。トイレに行くふりをして頼んてくれたみたいです。」 「かすりちゃんが喜ぶ姿が見たかったんだね。」 「はい。」 かすりはちょっとくすぐったい気持ちになる。 「あの日の母は朝から凄く嬉しそうで……今でも目に浮かびます。」 あの日、お昼を食べた後にかすりは知らない男の人と会った。 母はその人について何も言っていなかったけど凄く仲が良さそうで、その人が次の年度から小学校に上がるかすりのランドセルと入学式に着る服を買ってくれた。   かすりの母も濃紺のシンプルだけど品のいいスーツを買ってもらっていた。 普段人からわけもなく物を貰うことを嫌う母が嬉しそうにいろいろな物を買ってもらう姿に子供ながら不思議に感じていた。 それからその男の人とは会っていない。 今、その男の人が誰か考えると、考えられるのは二つ。 一つは当時お母さんが付き合っていた人。 もう一つは……かすりのお父さん。 だけどお父さんだとすると、別れてからそうして会うのはおかしい気がする。 だって駆け落ちしてまでして一緒になりたかった人なんだから、別れるとしたらよっぽど嫌いになったか、よっぽどの理由があったからだと思うから。 かと言ってお母さんが誰がと付き合っている様子はなかった。 最も、その頃かすりは小さかったし、社内恋愛なら私が知る由もない。 なんにしても母がいない今、確かめようが無いことだった。
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