3102人が本棚に入れています
本棚に追加
かすりが電子レンジでお弁当を温めて出てくると、阿部がかすりの机の上の茶筒、通称ランチョン箱(莉子いわくランチの材料費をかすりが貯金している貯金箱だからランチ貯金箱→ランチョン箱らしい)にお金を入れているところだった。
最近始めたばかりなのに、お金が長い茶筒の3分の1くらいのところまで来ているのは、お金をポケットに直接入れる人達がかさばる小銭をいつの間にかこの中に入れていくから。
そういった人たちの為にかすりはランチョン箱の隣に小さなカゴを置いて、その中に飴やガム、チョコレートや個装された茎わかめやサラミ等を入れてお金を入れた人に勝手に持っていって貰うようにしている。
ちょっとした駄菓子屋みたいだと、男性陣の中では人気らしい。
「梅雨明けしたみたいだよ。」
阿部が嬉しそうに言った。
「そうみたいですね。」
「なんだ、知ってたのか。」
阿部は社内で仕事をしているかすりは知らないだろうと思っていたトップニュースを、かすりがすでに知っていた事に少しだけ残念に思った。
「さっき専務がテレビ見て言ってました。」
「そっか、専務にとったら一大事だもんな。」
「何でですか?」
「これから大仕事が始まるんだよ。」
「大仕事?」
「そうよ。
大変よ。」
そう言いながら莉子がお弁当を持ってかすりと阿部がお弁当を食べる長机に自分のお弁当を置いた。
「かすりんは初めてだからわからないだろうけど、今日中にできる仕事は終わらしておいた方がいいよ。」
「これから何が始まるんですか?」
かすりはどんどん不安になってきた。
「食堂に置いてある梅干し知ってるよね?」
「はい。」
室内で働くかすりにはわからないが、夏場の電気工事は地獄だと誰かが言っていた。
電気工事なので当然クーラーや扇風機は使えないからだ。
ひと夏に5キロ痩せたなんて話は珍しくないらしい。
だから熱中症予防の為に食堂の机の上にはいつも梅干しが置いてあって、誰でも好きに食べていいことになっている。
「あの梅干し、どうしてると思う?」
「買ってるんじゃないんですか?」
莉子はもったいぶって首をゆっくり左右に振る。
「作るのよ。」
「えっ?そうなんですか?
ちなみに誰が??」
「専務と、私達が。」
「えっ!そうなんですか?」
「そう。
今は減塩がブームでしょ?
だから甘い梅干しは売ってるけどしょっぱい梅干しってあんまり見なくなったと思わない?
だけど毎日汗だくになって仕事する人にとって塩分は必要なものだからしょっぱい梅干しがいいんだけど、売ってないから自分達で作るようになったみたい。
とにかく今日できる仕事はやっちゃったほうがいいよ。」
「そっか。
わかりました。」
梅干し作りと言われてもピンとこないけど、なんとなく早く仕事を片付けるなければいけないようなので急いでお弁当を食べ始めた。
最初のコメントを投稿しよう!