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莉子は給湯室隣の書類や備品を置く倉庫へ行くと、年賀で貰ったタオルが入っているダンボールからタオルを数えている。
「1、2、3、………」
10まで数えるとそれをすべてかすりに渡し、また数を数え始めた。
「それ給湯室に持っていって、袋から出しといて。」
「はい。」
かすりは言われたとおりに袋からタオルを出した。
そのうちに莉子が追加でタオルを抱えて持ってきて、すべてを袋から出し終えると、バケツにタオルを入れてぬるま湯で洗って糊を落とす。
それが終わると水でもう一度洗ってから一本一本軽く絞った。
「あんまり絞りすぎないでね。」
「はい。」
それが終わるとタオルをビニール袋に入れて冷凍庫に入れる。
「これ、何に使うんですか?」
「そのうちわかるよ。
うちの会社ではよく使うから覚えといてね。」
「はい。」
かすりは梅干しを作る過程にそんな手順があったかと考えるけど、元々よく知らないので結局わからなかった。
倉庫では工事用の大きな扇風機が2つ回ってはいるけど、暑い空気をかき混ぜる温風機と化していて、みんなが汗だくで作業している。
「暑いですねー。」
流れ出る汗をタオルで拭いながら、かすりは隣で作業する高橋に話しかける。
「ハハハ。
かすりちゃんは今年初めてだもんな。
俺らはいつも現場で慣れてるけど、結構キツイだろ?」
「はい。
現場の大変さを少しだけ体験した感じですかね?」
「暑さに関してはそうかもな。
かすりはちゃん明日はTシャツで来たほうがいいよ。
晴れの日は梅が終わるまでどうせ仕事なんてしないんだし。」
男性陣はみんな現場の作業員だから作業着のズボンにTシャツ、莉子と専務もTシャツにGパンという格好で作業している。
かすりも汚れてもいい服装で来るように言われてはいたけど、職場にTシャツはいけないような気がして汚れが目立たない紺のブラウスにチノパンで来ていた。
「そうします。」
かすりも明日はTシャツGパンにしようと思った。
倉庫内は異様な暑さにも関わらず、作業しながら談笑する和やかな雰囲気が漂っている。
そのうち、専務がチェック済みの梅を回収して数人の男性社員を連れて水道で梅を水洗いし始めた。
洗い終わった梅は倉庫の奥から出してきた2本の板が渡してある梅専用の棚の様なものの上に竹製のザルを乗せてその上で水を切る。
「梅に金属を使うと悪くなるって言うのよね。
だから出来るだけ竹製品を使うの。」
と、専務が教えてくれた。
もうすぐお昼という頃に社長が3回目の梅を運んで来て、「これを降ろしたら昼にしよう。」という社長の声が聞こえた。
かすりと莉子は給湯室に行って朝冷凍庫に入れたタオルを出してみる。
「ちょっと凍りすぎだからそのまま軽く水をかけてまた軽く絞って。」
水をかけて絞ったタオルはまたビニール袋に入れて、袋ごと倉庫へ持っていった。
「これみんなに配って。」
莉子にそう言われて2人で冷たいタオルを汗だくの社員に配って歩く。
「サンキュ」
みんな口々にお礼を言って受け取ると、
「ヒャー。」
とか、
「生き返るー。」
などと言いながら冷たいタオルで顔を拭いたり体を拭いたりしている。
『このために冷やしたんだ。』
かすりは納得した。
みんなが使い終わったタオルをバケツに入れて水と洗剤を入れると、莉子が、
「私達もお昼食べよう。」
と言ってお昼の準備を始めた。
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