全員出動!梅干し作りはじめ!! ー前編ー

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莉子とかすりはお互い向き合った形で並んでいるそれぞれ自分の机でお弁当を食べていた。 「今日阿部さんは?」 「お昼には戻れないと思うってメールがありましたよ。」 「なんか付き合ってるみたいだね。」 「お弁当を作る都合上予定を知ってるだけですよ。」 「それはそうなんだろうけど……ねえ。」 莉子は意味有りげにかすりを見た。 だけど心当たりの全くないかすりは全く動じない。 「そんなこと言ったら阿部さんに悪いですよ。」 「何で?」 「彼女いるかもしれないし。」 「いたら会社の女の子にお弁当作ってもらわないでしょ?」 「あ、そっか。」 かすりは阿部がいつも一人でご飯食べてるって言っていた事を思い出した。 「かすりんってやっぱり天然だよね。」 「私より阿部さんのほうが天然だと思いますよ。」 阿部はみんなが考えつかないようなことを突然言い出したりする。 発想が豊かというのだろうか? もしかしたらその発想をもっと活かせる職業についたほうがいいんじゃないかとかすりは時々思ったりする。 「阿部さんは天然は天然でも天然記念物って感じじゃない?」 「確かに。 滅多にいないタイプですもんね。」 思わず二人で笑ってしまう。 「明日さ、お昼どこかに食べに行かない?」 先に笑いをおさめた莉子が誘う。 「いいですね。」 今日はいつもと違う仕事をしているせいか、外食がとても魅力的に感じた。 「暑いから冷やし中華か、逆にすっごく熱いラーメンとか?」 かすりは頭の中で想像する。 「どっちもいいですねー。 普段熱々ラーメンは汗かくのが嫌で食べるのをためらうけど、これだけ汗かいてたら気にしないで食べられますね。」 「そうだね。 じゃあ明日は熱々ラーメンね。」 「はい。」 お昼が終わる頃に五十嵐が他の社員と一緒に戻ってきた。 「専務、イガは午後梅干しの方でこき使ってください。」 五十嵐の教育担当の吉田が五十嵐の背中をバンと叩いた。 「イタっ。 お手柔らかにお願いします。」 「オッケー。 ビシバシしごくわよ。」 専務がニヒルな笑みを浮かべる。 「うわー。 怖えー。」 怖気づく五十嵐を残して吉田は五十嵐を置いて現場へ行った。 「今みんな忙しいだろうに、イガちゃんは現場にいなくて大丈夫なの?」 「俺はまだ見習いで出来ない事も多いから戦力外ですよ。 今は梅干しの方で人手がいるからそっち手伝えって言われちゃいました。」 「確かに人手は欲しいよね。 早くやらないと梅悪くなっちゃうしね。」 「俺梅干しなんて作ったこと無いから何やったらいいかわかんないですよ。」 「専務にくっついていれば大丈夫だよ。 人使い荒いけど。」 「やっぱそうっすよね。」 「大丈夫だよ。 現場よりは楽だから。」 後ろから社長が声をかけてきた。 「そうっすか? 俺はずっと座ってヘタ取んの苦痛っす。」 まだ若い茶髪の山下が入ってくる。 「っつう事で、俺午後は外行ってきます。」 「お前はもっと忍耐力つけた方がいいんだよ。」 「マジ無理っすよ。」 そう言って山下は逃げるように会社を出ていった。
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