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次の日、かすりは出社すると事務所の清掃をして、それから昨日家で洗ってきたタオルを昨日同様水に濡らして冷凍庫へ入れた。
ラジオ体操をする為に外に出ると、もう梅のヘタ取りをしている人もいて、でもラジオ体操の曲がかかると立ち上がってその場でラジオ体操を始める。
かすりはそれぞれバラバラに散らばってラジオ体操する人の中に阿部を見つけて話しかけた。
「おはようございます。」
「おはよう。」
「今日は阿部さんずっと事務所ですか?」
「午前中はね。
午後は出るけど。」
「じゃあ午前中は梅干し仲間ですね?」
「そうだね。
梅干し作りが始まると梅雨が明けたなーって感じがするよ。」
阿部は気持ち良さそうに空を見上げた。
「そうなんですか?
私もそのうちそう感じるようになるのかな……?」
「なるよ、ね?鈴木部長?」
阿部は隣でラジオ体操する鈴木部長に話しかけた。
「なるな。
間違いなく。」
鈴木部長は真面目な顔で言った。
「いつまでもここで梅干し作りなんてやってっと梅干し婆ちゃんになっちゃうぞ。」
鈴木部長が真面目くさった顔で言った。
「ちょっと、ひどーい。
鈴木部長、それセクハラじゃないんですか?」
鈴木部長は小柄で痩せていて、職人っぽい見た目なので最初は近づき難い。
そして時々真面目な顔で冗談を言うので冗談なのか本心なのか喧嘩を売っているのかわからないことがよくあって、最初はかすりも返答に困っていた。
だけど実は優しい人なので、独特の性格をわかってしまえば慕う人が多い。
53才、愛妻家でいつも持ってくる愛妻弁当は愛する妻が作った弁当ではなく、鈴木が愛する妻の分も作る弁当だとうい事は以前阿部がこっそり教えてくれた情報だ。
ラジオ体操が終わると、みんな一斉に自分の仕事へついた。
今日の梅干し係は7人。
元々小さな会社なのでギリギリの人数で回している。
だから梅干しにつきっきりになれるのは社長、専務、事務の莉子とかすり、新人の五十嵐くらいで、他は仕事の合間に手伝ってもらう感じになるようだった。
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