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昼休みが長くなったのは嬉しいけど、お昼のベルがなるまで阿部さんを待つべきか、待たずに行ってしまうか、莉子とかすりと五十嵐は迷っていた。
「もしかしたら急いで帰ってくるかもしれないから、時間まで待ってましようか。」
と、かすり。
「でも少しでも早く行ければお店が混む前に入れるんだよね。」
と、莉子。
「俺は……時間前に先輩を置いてくなんて出来ないっす。」
と、五十嵐。
「だよねー。
じゃあドアの前で待ってて、車が入ってきたら有無を言わさず乗り込もう。
もし阿部さんが来ないでお昼のベルが鳴ったら速攻出かけよう。」
そう莉子が決めて、3人で会社の入り口付近でクーラーに当たりながら阿部の帰りを待った。
お昼のベルと同時に阿部のRV車が会社の玄関前に横付けしてきて、ブレーキランプを確認すると一斉に3人が車に乗り込む。
逆に阿部は外に出ようとして車のドアを開て片足を地面についたところに3人がいきなり車に乗り込んで来たので驚いた様だった。
莉子が運転席の後ろ、五十嵐が助手席にさっと乗り込んで、かすりが助手席の後ろに乗ろうと上半身を車に入れて足をバタバタさせている。
「足から乗って。」
莉子のアドバイスでなんとか乗り込んだ時には、阿部はもうシートベルトをし終えていて、かすりが乗り込んだのを確認すると車を発進させた。
みんなの連携の良さが功を奏して、ラーメン屋には混む前に入ることができた。
注文を済ませてかすりは水を飲んだ。
「冷たくて美味しい。」
「生き返るー。」
五十嵐も水を一気に飲み干すと、阿部がすかさずピッチャーから五十嵐のコップに水を注ぐ。
「すんません。」
「いいえ。」
「阿部さん、お昼に帰ってこられて良かったですね。」
「ホント良かったよ。
呼び出されたのは大した用じゃなかったんだけどさ、花田さん話が長くて。
ずっと孫の自慢話聞かされたよ。」
花田さんは個人のお客さんで、電気配線から水道工事、電化製品までかすりの働く会社に任せてくれている。
73才で一人暮らしをしているので、一度訪ねるとしばらく話を聞かされてなかなか開放してくれない。
阿部が息子さんに似ているとかで、いつも阿部を指名してくるのだ。
だから電話の相手が花田さんだと聞いたかすりたちは阿部はお昼に戻って来られないだろうとよんでいた。
「わたし、阿部さんはお昼に間に合わないと思っちゃいましたよ。」
「俺も花田さんから電話って時点で半分諦めてたよ。
あの人もずっと一人で寂しいだろうから、できるだけ話を聞こうとは思うんだけどね……。
でも今日はなんとか帰してもらえたから良かった。」
そう言って笑う。
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