3100人が本棚に入れています
本棚に追加
/437ページ
このお店のラーメンは普通のものもあるけど、石焼きビビンバの器を熱々に熱したところにラーメンを入れるのがウリなので、店内の温度は低めに設定されている。
汗をかいた体が急激に冷えて寒く感じてきた頃に、注文したラーメンが運ばれてきた。
熱い湯気が顔に当たると、かすりは一瞬顔を背けた。
「来た来た。」
莉子が嬉しそうにラーメンを自分の前に引き寄せる。
「いただきまーす。」
それぞれがそれぞれ『いただきます』を言いながらラーメンに箸を入れた。
「あちっ。」
五十嵐が熱いとわかっていてもつい言ってしまう。
「でもやっぱり美味しい。」
かすりの言葉に一同頷く。
ラーメンを半分食べた頃にはみんな汗だくになっていた。
「この間祖父母の家に行ったときに、田植えとか稲刈りをしてみたいって話をしてみたんです。」
かすりがそう話しかけると、莉子と阿部が顔を上げた。
「どうだった?」
莉子が様子を伺うように聞く。
「田植えでも稲刈りでも芋掘りでも、いつでも来ていいって言ってました。」
「ほんと?
やった。」
「芋掘りも楽しそうッスね。」
「畑は余ってるから好きなもの植えてってもいいって。
それから夏祭りの頃にホタルが出るから泊まりに来たらって言われました。」
「ホタル?
私見たことない。」
「俺もないっす。」
「俺はもう何年も見てないな……。」
「行きたいけど、それって本当に行ってもいいの?」
莉子が遠慮がちに聞く。
「多分大丈夫だと思います。
部屋はあるし、祖父母の方から言ってくれたから。」
「じゃあ私はお言葉に甘えて、行きたいな。」
「俺もいいっすか?」
「もちろん。
阿部さんは?」
「うーん。
まだ会ったことも無いのにいいのかな……?」
阿部は食べる箸を止めて考え込んだ。
「じゃあ一度行ってみます?
カレーに入れる野菜もらいに。」
「それはそれで……。
どうしよう。」
「お祭りっていつなの?」
「確か、お盆前だったと思います。」
「土日?」
「はい。
今は土日になったって言ってました。」
「土日なら問題ないね。」
莉子が素早く答えた。
「莉子さん、確認しないで答えるってよっぽど予定無いんですね?」
五十嵐が笑いながら言うと、莉子がムッとした顔をした。
「そういうイガちゃんはどうなのよ。」
五十嵐はわざとらしくスマホのスケジュール表を出して見ている。
「俺は……、その頃は大丈夫っす。」
莉子が五十嵐のスマホをサッと奪うと、
「イガちゃんだってなんにも予定ないじゃん。
真っ白だよ、真っ白。
まったくよく人の事言うよね。」
「違いますよ。
まだちゃんと決まってないだけで、これから予定が入るんスよ。」
「嘘ばっかり。」
莉子はキッどうなのよ五十嵐を睨みつけた。
「怖えー。」
そのつぶやきが莉子の耳に入って、五十嵐は更に怖い顔で睨まれている。
そんな2人のやり取りが聞こえているのか聞こえていないのか、阿部は一人黙って考え込んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!