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結局阿部はずっと一人で考え込んでいたけど、莉子の
「どうせ私達は泊まりに行くんだから阿部さん一人増えてもそんなに違わないんじゃないの?」
という言葉に引っ張られて、
「じゃあかすりちゃん、もう一度ちゃんと聞いてくれる?
本当に迷惑じゃないか、本当に泊まっていいのか……。」
そう言った。
「わかりました。
聞いておきます。」
ランチ限定で付いている杏仁豆腐を食べ終えて、お店を出る頃にはお店は数人が席が空くのを待っている程混んでいた。
「混む前に来られて良かったね。」
莉子が改めてそう言う。
「暑いから冷やし中華とかつけ麺食べてる人も結構いましたね。」
「この暑さであのラーメンは覚悟がなきゃ食えないっすよ。
隣の席のサラリーマンは汗だくでシャツが透けてたし。
ある意味凄いっす。」
「あんなにビッチョリで午後どうするんだろうね。」
そんな話をしていると、会計を終えた阿部が店から出てきた。
「ごちそうさまでした。」
3人で一斉に挨拶する。
「いいえ。」
阿部は会計時に貰ったガムをみんなに配る。
会社に戻ると阿部と鈴木部長はそれぞれ現場へ出かけた。
「梅干し隊減っちゃいましたね。」
かすりはそう言って肩を落とした。
梅干しのヘタ取りが嫌いなわけではないけど、皆でワイワイやるのが楽しかったからだ。
「大丈夫よ。
そのうち誰か戻ってくるから。
うちの会社の梅干し作りは基本的に全員参加だから。
あれでみんな結構楽しんでるみたいだし。」
確かに、すぐに飽きてしまいそうなヘタ取りでも皆で話しながらやるせいか、それほど嫌がる人はいないようだ。
「とは言ってもたまに脱走する人もいるんだけどね。」
「脱走ですか?」
「そう。
仕事のふりしてどっかへ行っちゃう人がいるのよ。」
「そうなんですか?
それでどこへ行ってるんですか?」
「だいたいは仲のいいお客さんのところみたいよ。
前に梅のヘタ取りが嫌でお客さんのところへ行って暇を潰してたら、話の流れで注文が取れたことがあったのよ。
だから社長も少しくらいなら脱走しても目をつぶってるみたい。」
「なる程。」
「まあ、普段結構自由に動いてる人達をずっと座って作業しろって言っても難しいよね。
そう考えたらみんなかなり協力的だよ。
うちの会社の一大イベントって事もあるんだろうけどね。」
午後用のタオルを冷凍庫に入れ終えると、玄関に3人の社員の姿が見えた。
「ただいまー。
午後は俺たち手伝うよー。」
陽気な声が響く。
これから午後の梅干し隊による楽しい作業が始まる。
午後はどんな楽しい話が聞けるのかと思うと、かすりはちょっとわくわくしながら蒸し暑い倉庫へと向かった。
全員出動!梅干し作り始め!! ー後編ー へ続く
その前に別の話を挟みます
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