毎日お弁当

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毎日お弁当

昼休みを告げる鐘がなると、オフィス内で仕事をしていた人たちが一斉に動き出した。 オフィスと言っても、田舎の小さな電機工事の会社なので、広さは大きめの民家と大して変わらない。 北原かすりは自分のデスクの一番下の引き出しから小さなお弁当を取り出した。 「かすりん、ベル行かない?」 先輩の新島莉子が誘ってくれたのはイタリアンのお店、『ベル』 ランチはデザートやドリンクがついて、夜より安いのでお得に美味しく食べられる。 「行きたーい。 けど、お弁当持ってきちゃったんで、今日は我慢します。」 毎日お弁当を持ってきているから、前もって誘ってもらわないと行けないんだけど、莉子はいつも直前に誘ってくる。 あまり断っても申し訳ないので何回かに一度はお弁当を諦めて食べに行くけど、毎回お弁当を無駄にする気にはなれない。 お弁当の蓋を開けると莉子が覗き込む。 「美味しそー。 ホントにマメだよね。」 「そういうわけじゃないんですけど……。」 そのやりとりを見ていた阿部健吾が一緒にお弁当を覗き込む。 「ホントにうまそーだな。 その弁当俺にくれない? かすりちゃんのお昼代払うから。」 「えっ。 いいですよ。 そんな人様に食べて貰えるほど美味しくないですし。」 「十分美味しそうだよ。 俺毎日コンビニとか外食で、正直飽きちゃったんだよ。 頼む。」 顔の前で合掌するように手を合わせて言うので、断れなくて渋々OKした。 「本当に美味しくないですよ。 お腹壊しても責任取れませんよ。」 「わかったわかった。」 そう言って阿部は財布から千円札を取り出した。 「足りなかったら悪いけど自分で出してくれる?」 「こんなにいいですよ。 500円でいいです。」 「ベル行くんだったら1000円無いと足りないだろ?」 「そうですけど、私のお弁当でそんなにもらうのはちょっと……。」 「充分その価値はあるから。 ほら、早く行かないと店混むぞ。」 そう言われてかすりは迷ったけど、 「ありがとうございます。」 と頭を下げて会社を後にした。
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