ほっこり栗ご飯

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ほっこり栗ご飯

最近は朝晩は冷え込むようになってきて、いよいよ秋らしくなってきた。 かすりはアパートで一人十三夜の用意をしていた。 『十三夜に曇りなし』と言うけれど、今年は超大型台風接近で残念ながら月は見られそうにない。 だけどそれはそれ、これはこれ。 十五夜をやって十三夜をやらないわけにはいかない。 スーパーの入り口に『ご自由にお持ちください』と書いて置いてあったすすき3本を花瓶に挿して、窓際に置いた小さなテーブルに乗せた。 お団子にけんちん汁、それから祖父母にもらってきたさつまいもとりんごとを置いて、 『あれ?何か足りない』 立ち止まったかすりは手をポンと叩いて台所へ行くと、 「これがなきゃ栗名月にならないわ。」 そう言って茹でてあった栗を並べた。 十五夜は芋名月だから里芋、十三夜は栗名月だから栗を、かすりは昔からの慣習を律儀に続けている。 十五夜も十三夜も子供の頃から好きなイベントだけど、最近は一人暮らしには負担が多いと感じていた。 なぜなら月見を終えたあとに下げた料理をすべて一人で食べなければならないから。 りんごは後でもいいとして、お団子13個だけでもキツイのにけんちん汁に蒸したさつまいも3本と栗は調理してあるからすぐに食べなければならない。 と言っても絶対無理なので、かすりはいつもけんちん汁以外は冷凍してしまう。 ベランダの窓を開けて外を眺めると、台風特有の方向の定まらない風が吹き込んでくる。 仕方ないのですぐに窓を閉めてカーテンだけを少しだけ開けた。 そんな時、玄関のインターホンが鳴った。 「はぁい。」 と玄関を開けると若い男性が立っている。 くりくりの大きな目に男の人にしては可愛らしい片えくぼ、天然パーマらしいくるくるの髪を見るとかすりよりも若く見える。 「こんばんわ。」 「あ、大家さんの甥御さん?」 「覚えててくれました?」 大家さんの甥は嬉しそうに笑った。 「土日に引越す予定だったんですけど、台風が来るんで昨日今日で引っ越して来たんです。 これ、つまらないものですが……。」 そう言って小さな包を差し出す。 「そんな……。」 かすりは受け取っていいものか迷っていると、 「お決まりのご挨拶だから。」 と言われて包を受け取る。 「じゃあ……お気遣いありがとうございます。」 「仕事から帰ったら大体隣にいるんで、何かあったらすぐに声かけてください。 叔母の方に言ってくれてもいいし。」 「わかりました。 心強いです。」 「それじゃあ……。」 「はい、わざわざすみません。」 お互いに会釈をして別れると、玄関の扉が閉まる。 かすりは中断していた十三夜の準備を再開した。
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