第1話 シャドー界の悲劇!カゲはトモだち?

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第1話 シャドー界の悲劇!カゲはトモだち?

 人の住まう星、地球。生命の楽園とも言えるこの惑星は、次元を異にするふたつの世界より成り立っている。ひとつは人間界、もうひとつがシャドー界である。この両世界はコインの裏表のようにぴったりと重なり合い、それでいて交わることなく、原初の時より地球という惑星のバランスを維持してきたのである。  人間界に生きる「人」たちは長い年月の間にこのことを忘れ、己の叡智とスクラップ&ビルドの歴史に下支えされた科学文明を営み続けてきた。しかしシャドー界を住処とする「シャドー」と呼ばれる種族は、地球に宿る精霊の力と共にあり続け、魔法文明とでも言うべき独自の発展を遂げた。予言、奇跡、神秘の力……そうした地球の恩寵に守られた調和の世界、それがシャドー界である。  この物語は、そんなシャドー界の平和が突如として崩れ去る日より始まる。  それは突然の終わりであった。青い空がにわかに毒々しいピンク色に染まったかと思うと、四方の地平より巨大な黒い怪物がそそり立ち、シャドー界の中心地……王都プルトリアへと一斉に進撃を開始したのである。城壁を守る兵士たちが魔法兵器で応戦するも、怪物の鈍く光る体には傷一つつかない。逆に怪物は火のように燃える赤い目より怪光を発し、城壁に据えられた魔法兵器を一瞬にして吹き飛ばしてしまった。城壁から幾度も爆炎が上がり、それを見た王都の民衆が悲鳴を上げて逃げ惑う。  その人波に飲まれながら、ひとり耳を澄ませる紫苑の髪の少女が居た。少女の名はカーラ。王都で魔法を学ぶ学生であると同時に、女王ペルセフォネに仕える「影の乙女」の末席に名を連ねる少女である。彼女もまた他のシャドーたちと同じように混乱し、あてどなく逃げ惑っていたのだが、そんな時、彼女の耳に女王からの念話が届いたのである。 「女王様!?今どちらに……これは一体どういうことなのですか!?」  あまりのことに狼狽を隠せないカーラ。そんな彼女に女王は優しく諭すように語りかける。 『……カーラ、カーラよ、今はよく聞くのです。わたくしは今、城の最奥……オーブの間より貴女に語りかけています』  それを聞いてカーラは蒼白になった。城壁は既に破られ、四体の怪物は山ほどもある巨躯より不快な駆動音を響かせながら、今まさに女王の居るシャドーキャッスルをその嘴にかけようとしていたからだ。 「何故!?何故そのような所に……早くお逃げを!」 『それはなりません。わたくしにはまだ使命が残っています。カーラ……わたくしはかねてよりこの日を予知していました。例え王都の守備隊が束になろうとあの怪物には敵わぬことも。かくなる上は、わたくしの力でシャドー界の民全てを形の無い霊魂と化し、きゃつらが手出しできぬようにします』  カーラはハッとした。女王の言う通り、いつしか自分の体は黄金色の光の粒子へと変わりゆき、足先から霧散しつつあった。周りに居る大勢のシャドーにも同じことが起こっている。息を呑むカーラを気付かせるように、女王は力強い声で更に続けた。 『そしてカーラ、貴女は人間界へ行くのです。貴女は人間界と特別な繋がりを持つ運命の子ども……今の貴女なら、世界を隔てる見えない壁をも越えられることでしょう』 「人間界!女王様、それではもしや……」 『そうです。その時がやって来たのです。あの命なき侵略者を打ち負かすには、人と影の力を結集するより他にありません。お会いなさい、貴女のシャドーメイトに!』  手足の感覚が薄れゆくとともに、霊魂となったカーラの体が天へと昇って行く。空に蓋する見えない壁を通り抜けた時、そこには人間界への入り口があると言われている。
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