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最早その身に纏った電撃をも失い、ただの鉄塊となったデビルアルマーが路面に落下する。だがボルテック・フラッシャーの麻痺効果はそう長続きしない。エミカーラはただちにフィニッシュに入った。
「はっ!」
大地を固く踏みしめ、強靭な膝のばねを限界まで引き絞って前方へジャンプ。空気を裂く破裂音を残し、エミカーラは矢のように飛び出した。カゲトモとしてのエミカーラのジャンプ力は最高200m。重力を振り切りそれだけの上昇を可能にするエネルギーを、今全て敵への突進に利用する。
「カゲトモ・ミーティアインパクト!!」
流星のごとき神速の放物線、その最中でエミカーラは全身を勢いよくよじってそのままきりもみ回転。絶大な衝撃力と貫通力を秘めた一個の砲弾と化し、ようやく身じろぎを始めたデビルアルマーの土手っ腹に着弾した。
「突・貫!!」
インパクトの瞬間に拳を突き出し、頑強な装甲を内部機構ごと打ち砕く。その勢いはとどまることなく、エミカーラはデビルアルマーの体躯そのものを貫通し、背中の甲羅をもぶち抜いて空中へ飛び出した。
ギギギギギ……と断末魔のノイズを発し、ボディの各部をスパークさせるデビルアルマー。どうと地に倒れたその巨体はとうとう大爆発を起こし、木っ端微塵に吹き飛んだ。
「デビルアルマー!……まさか、デビルメカを倒しただとっ?あの小娘が……?」
アスファルトにブレーキ痕を刻みながら着地するエミカーラを、ティーン・ブラーボはまじまじと凝視する。手元の端末は依然としてエラー表示のまま、分析不能を示している。
「くそっ……このままでは済まさんぞ」
ティーン・ブラーボはそう小声で吐き捨て、端末を操作した。すると彼の頭上の空間にマンホール大の穴が開き、彼はそれに吸い込まれるようにその場から消え失せた。
それと同時に、毒々しいピンク色をしていた空が元の夕焼け空に戻り、壊れた建物や路面は元通りに直った。デビルメカの残骸もまるで最初から無かったかのように消え去り、街の音や人の往来、日常の事象がエミカーラの周りに次々と立ち現われて来た。ハンティングフィールドが消滅し、二人は現実の世界に帰還したのである。
「勝っ……た……?」
敵の去った空を見上げ、エミカーラは呟いた。その背後からクラクションが鳴り響く。
「うわおっ!?」
ここは大通り、当然交通量も元の通りに復活している。人身事故寸前の距離まで迫っていた乗用車をエミカーラはジャンプで辛くもかわした。そのままビルの屋上に飛び乗り、そこで合身を解除する。光と共にエミカーラは姿を変え、人の映美と影のカーラに戻った。
「ふう……最後の最後にヒヤッとしたよ」
屋上にぺたんと座り込み、映美が脱力する。その背中の下でカーラもへたり込んでいる。何せ初めての戦闘、疲労にも増してふたりとも気を張っていたものだから。
『カゲトモは頑丈なので車ぐらい平気だとは思いますが……人間界の平穏を悪戯に乱す行いは避けるべきでしょうね。私たちがカゲトモに合身できることはできるだけ秘めておきましょう』
「そうだね、何も知らない人を巻き込むわけにはいかないし。……それにしてもさ、カーラ!勝てたんだよ、ボクたちふたりで!」
くるりと身を翻してコンクリートの床に手をつき、映美はカーラと向かい合った。
「カゲトモ、凄いパワーだった!ふたりで力を合わせれば、こんな凄いことができるなんて!もう感激だよ!」
『……ええ、私も同じ気持ちです。映美さん、本当にありがとう。それで、その……どうかこれからも、私と一緒に戦ってくれませんか?』
「もちろんだよ!ボクとカーラで地球を守る。そしてシャドー界に平和を取り戻そう!」
満面の笑みでそう告げると、映美は床に映るカーラに胸からダイブした。体と影がぴったりと重なり、カーラがほんのり赤くなって慌てふためく。傍から見れば屋上でひとり転がっている変な人かもしれない。しかし映美とカーラは確かにふたりでそこに居て、今ここにカゲトモとしてのふたりの使命の日々が幕を開けたのである。
第1話「シャドー界の悲劇!カゲはトモだち?」
おわり
次回へつづく
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