第2話 いきなり喧嘩!?共同生活はドキドキいっぱい!

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 映美がそんな日常レベルのトラブルにさえ音を上げている頃、その遥か頭上……大気圏を突き抜けた地球軌道上には、ブラーボファミリーの太陽系方面艦隊が停泊していた。人間界の如何なる望遠鏡や人工衛星でも見破れぬカモフラージュ装置で姿を隠した宇宙戦闘艦群は、旗艦プロトを含めて実に20隻。その気になれば地球一面を焦土と化すこともできるこの大艦隊が未だに沈黙を守っているのは、ひとえに母星に居る首領ドン・ブラーボの意思によるもの。文明の未来すら左右する圧倒的な力と全能性、それがファミリーの「パパ」たるドンの威厳なのだ。  しかし、その息子ティーン・ブラーボはというと、旗艦プロトのブリッジにて絶賛八つ当たり中……威厳のかけらも無い姿をクルーたちに晒していた。 「くそっ……くそっくそっ!カゲトモだとぉ!?馬鹿にしやがって!」  彼が手にした宇宙剣が一閃する度に、八つ当たり用の生け贄ロボットが数体まとめてバターのように切り裂かれる。 「おれを誰だと思ってる!?おれはファミリーの跡取り……ティーン・ブラーボ様だぞぉ!」  周りの精密機器を傷つけぬように張られたヒステリーフィールドの中でティーンは喉が枯れる程に絶叫し、ロボットをあらかた切り尽くしたところでようやく落ち着いた。 「ダン!シャドー界の方はどうなっている?」  汗まみれになった服の替えを舎弟に要求しながら、ティーンはブリッジの片隅に控えていた壮年の男に言葉を投げかけた。グレーの背広を粋に着こなしたその男の名はダン・ヴィーライ。ティーンの教育係をドンより直々に仰せつかったファミリー随一の古株であり、またティーンの参謀として辣腕を振るう歴戦の猛者でもある。  興奮冷めやらぬティーンに薄笑みを向けながら、ダンは靴音も鋭くメインモニターに向かう。そこには、雪と氷に完全に閉ざされたシャドーキャッスルが映し出されていた。 「城を始め、王都全体を覆う氷雪の除去は難しいでしょうな。作業に当たっていた若い者が若干名、重機ごと氷に飲み込まれておるそうで。いやはや何とも凄まじい……まるでこの氷が女王ペルセフォネの執念そのものであるかのようですなぁ」  ダンの言う通り、城を中心とした巨大な氷塊はゆっくりと形を変えながら繰り返し膨張しており、周りを取り囲むファミリーの重機やロボットを牽制するかのように吹雪までもが絶えず吹き付けている。最初に王都を襲った四体の巨大ロボットは城に取りついたまま丸ごと凍らされ、完全に機能を停止している。 「影のオーブの奪取に失敗した上に、新型のゴルギーを四隻も失うか!女王め……無駄なあがきで煩わせおって!パパに何と報告したものか見当もつかん!」  苛立ち頭をかきむしるティーン。そんな彼の近くにダンは歩み寄り、目深に被ったハットをクイと持ち上げて語りかける。 「どうです二代目、このまま女王の力がいつまで持つか見届けるのも一興なれど、ここはまず人のオーブの捜索に注力しては如何かな?」 「何ぃ?……どこにあるのかもわからん人のオーブをか?」 ティーンは怪訝な顔をしたが、ダンは構わずこう続けた。 「人と影、ふたつのオーブは互いに惹かれ合う一対の秘宝と言います。人のオーブを手に入れてシャドー界に持ち込めば、影のオーブとの間に何かしらの共鳴を起こす筈。それが案外、女王を打ち崩す切り札になるやもしれませんぞ」
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