第2話 いきなり喧嘩!?共同生活はドキドキいっぱい!

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 ダンのハットの下の右目には、昔の戦いで負った大きな刀傷が刻まれている。その右目をぎゅっとつぶって、ダンはティーンに間近でウインクをした。すぐ頭に血が上るティーンもこれには妙に弱く、気圧されたように頷いた。 「……わかった。ひとまず標的を人間界に絞り、おれが捜索隊の指揮を取ろう。シャドー界に駐屯中の部隊には待機を命じろ。だが警戒は怠るなよ」 「御意に。ご安心召されよ二代目。このダン・ヴィーライ、必ずや二代目に栄光を……そしてブラーボファミリーに勝利をもたらして見せますぞ」  不敵に笑うダン。その言葉が虚言やハッタリでないことをティーンはよく知っていた。父ドン・ブラーボの盟友としてかつて宇宙を荒らし回り、数々の難敵を下して来たダン・ヴィーライがそう言うのだ。この戦いもそう長くはない……ティーンはそう思った。  一方の人間界では、盛大に遅刻をやらかして先生に大目玉を食った映美がよれよれに疲弊して机に沈んでいた。 「だーっはっはっは!!ばっかでぇーいっ!来る途中で日向ぼっこしてて遅刻するとか!やば~~~」  今は休み時間。事の次第を聞いた清夏が爆笑しながら映美の背中をバシバシ叩く。正確に言えばカーラと話し込んでいて遅刻したのだが、カゲトモのことを説明するわけにもいかないので映美は甘んじて背中を許している。 「あー苦し……ホント面白いわー。映美坊やを見てると飽きが来ないのよね」  笑いすぎて滲んで来た涙を袖で拭いながら、清夏は映美の机に腰かける。 「ザ・ベストオブ天然賞ってね!」 「……もう何とでも言ってください……どうせボクはお日様大好きの真性ぼんやり人間だよ」 「何よぅ、今日は珍しく拗ねるじゃん。どした?呉羽先生に呼び出しまで食らったのがそんなに凹んだ?」  尋ねながら、映美の髪をわしゃわしゃする清夏。映美は猫のように頭を振ってその手を振りほどき、神妙な顔つきでこう答えた。 「……何て言うか、学校教育ってつくづく無粋なシステムだと思ってね……」 「は?」  突然の真面目っぽい発言に、清夏は思わずポカンとする。映美は更に続ける。 「もっとさ……やりたいこととか、大切なこととか、中学生には色々あるじゃん」  例えば、カーラと心行くまでお喋りするとか。 「要するに学校やだ……めんどくさい……もっと陽の当たる場所に居たい……」  正確に言えば、もっとカーラの姿がよく見える場所。要はカーラとの時間を中断させられたことへの愚痴を述べているのだが、そんなの清夏にわかるわけがない。 「まあ学校めんどいのは同感だけどさー、ホントにどした?何かあったのか~?うりうり、お姉さんに相談してくれていいんだぞ~?」 「む~~~」  清夏にほっぺをむにむにされ、映美は唸りながら体を起こした。すると机に落ちる映美の頭の影もすっと起き、腰かける清夏のスカートのあたりに被さった。 「……ん」  映美はそれを見て一瞬ぼんやりしたが、やがて思い付いたように指を伸ばし、清夏のお尻をスカート越しに突っついた。軽く指先が沈む感覚と同時に、清夏が「あン」と声を上げる。 「っていきなり何するか!」  清夏が驚くのも当然だ。しかし映美は最初から釈明を放棄している。 「あ~……いや何でもないってか、お姉さんお尻が大きいです。降りてください」 「ちぇー、言ってくれんじゃん。ま、ふざける元気があるなら心配いらないか。次、音楽室だから早く行かないとまた遅れるよ!」  清夏が自分の机に戻りリコーダーを引っ張り出している間、映美の机の上では映美の影……すなわちカーラが困惑していた。
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