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がらんとした空き教室に映美の叫びが反響する。その悲しい響きにカーラはハッとした。
『あっ……ち、違う!そんなつもりじゃっ……!私、私……わかりません!』
その一声と共に、カーラのシルエットが一際まぶしく光った。目も眩むようなその輝きが収まった時……映美の影からカーラの姿は消え、ただの真っ黒な影法師に戻っていた。
「カーラ……?」
映美が名を呼んでも、カーラの返事は無い。あるのはただ、窓越しに聞こえる昼休みの喧噪だけ。それを遠く遠く……遥か遠くに聞きながら、映美は今一度名を呼んだ。
「……カーラ!?」
昼休みも終わりにさしかかる頃、職員室に映美がやって来た。中で待っていた担任教師の呉羽は、呼び出しにまでルーズな問題児のようやくの来訪を苛立ちながら迎えた。
「影丸……お前なぁ個人で呼び出された時ぐらい余裕持って……って、どうした!?」
呉羽は面喰った。まだ小言も言ってないのに、なんと映美は顔中真っ赤に泣き腫らして職員室に入場してきたのである。
「ううぅ……ぐすっ……ひっく……う゛う゛~~~」
更に、映美は呉羽の顔を見るなり追加でぐずり出し、とうとう声を上げて泣き始めてしまった。
「あ゛~~~~~~!!」
「だーっ!泣くないきなり!こっちの頭がついて行かんわ!……ったくどうした?何かあったのか?話なら聞くから、ゆっくり話してみろ」
教師として穏やかな口調で取り成そうと試みる呉羽だったが、映美はちょっと意味不明な言語で喚き続けるだけで全く話にならない。
「何言ってるのかさっぱりわからん……おーい誰か!誰か影丸係呼んで来て!」
呉羽は廊下を歩いていた映美の同級生たちにそう呼びかけた。そして数分ののち、影丸係こと星影清夏が職員室に到着した。
清夏は泣きじゃくる映美を見て最初こそ戸惑ったが、すぐに映美をセーターの胸に抱き、背中をさすってあやし始めた。
「お~よしよし……あらら、こりゃ大変だ。先生、この子保健室に連れてってあげるけどいいですね?大方お腹でも痛いんですよこれ」
映美は普段あまり他人とコミュニケーションを取らないため、彼女のことは友人の清夏に大体任せるという不文律がクラス内で出来上がっている。今は呉羽もそれに倣うことにした。
「お、おう……わかった。五限目の先生には俺から伝えておく」
「サンキュー先生。……よし、じゃあ行くか。歩け~」
清夏に肩を抱かれ、映美は職員室を退場した。涙で足元も見えない状態の映美だったが、ふと、清夏が保健室とは真逆の階上へ自分を引っ張っていることに気付いた。
「……さやかぁ?」
「保健室って感じでもないでしょ。屋上、行こ?」
清夏は極力目立たぬよう映美を庇いながら、徐々に人気のなくなっていく階段を昇って行った。ふたりが屋上に着いた時、ちょうど五限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。流れゆく雲を真上に見ながら、清夏は「ん~!」と伸びをした。
「サボんの久しぶり!まあ、とりあえず座んなよ」
清夏に促され、映美はコンクリートの長椅子にちょこんと座った、その横に清夏が遠慮なく腰を下ろし、映美の顔を覗き込む。
「落ち着いた?」
「……うん。ごめんね、びっくりさせちゃって」
映美は目がまだ赤いが、ぐしょぐしょの雑巾のようだった泣き顔は少しマシになった。それでもって露骨に恐縮した様子の映美を、清夏はかっかと一笑に付した。
「な~に言ってんのよ!別に、坊やにびっくりさせられるのなんてもう慣れっこだっつーの。……それで?今日はどしたん?」
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