第2話 いきなり喧嘩!?共同生活はドキドキいっぱい!

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 照れ隠しをするように、清夏は映美のほっぺを両方つかんでみょ~んと引っ張った。口角を無理矢理に吊り上げられ、映美はヘヘヘと笑う。 「ありがとう清夏。……ボクもそう思う」 「おう。頑張んなさいよ、仲直り」  清夏はそう言って手を放し、映美は伸びたほっぺをさすって整える。顔が少し熱い……その火照りを感じながら、映美は不意に遠い記憶が思い起こされた。 「ねぇ、清夏。確か前にもこんなこと……」  ところが、その先を告げることは叶わなかった。 「なっ!?」  映美の隣りに清夏の姿は既に無く、見上げる空はいつの間にか毒々しいビビッドピンクの瘴気に満たされていた。ブラーボファミリーの駆使する異空間、ハンティングフィールドが今また映美を捕えたのである。 「まさか、またあいつが……」  無人となった屋上を見渡すと、果たして給水塔の陰からティーン・ブラーボが姿を現した。 「そのまさかだ!また会ったな地球人!」 「ティーン・ブラーボ!」  映美は内心焦っていた。カーラはあれ以降呼びかけても応答が無いままで、影を見ても依然として姿すら見えない。つまり、今の映美ではカゲトモになれないということだ。 「ふむ、成程……やはりシャドーの女は居ないと見えるな」 ティーン・ブラーボがサングラスの縁を押さえて映美の影を見た。 「な、何言ってるんだ?あんたにカーラは見えないだろ!」  ギクッとしながらも強気を装う映美だったが、ティーンはそれを高らかに嘲笑う。 「フハハハハッ!愚かな……このサングラスは正式名称をスペクトルグラスと言ってな。あらゆる光と影を解析し、人間に寄生したシャドーの存在をも把握できるのだ。今、お前の影からは何も感知されない!お前ひとりだ!」 「くっ……!何だよそれ!ずるいぞ!」  そう言えば昨日も、ティーンはシャドーの女と言ってカーラのことを明確に指差していた。どうやらごまかしやハッタリは通用しないらしい。 「どういうわけだが知らんが、これは雪辱の好機!遠慮なく付け込ませてもらうぞ!」  ティーンがコートの裾を開き、腰に差した宇宙剣を抜き放った。独特の放電音と共に白熱化した刀身がゆらぎ、周囲に陽炎が立つ。 「ぜいっ!!」  ティーンはそれを横薙ぎに一閃させ、側の給水塔を叩き切った。バーナーで鋼鉄を焼き切る時のようなオレンジ色の線が給水塔の本体を両断し、中の水が煮えたぎって溢れ出す。映美は足元に跳ねて来る熱水に慌てて飛び退いた。その様を見てティーンがまた笑う。 「どうだ怖いか地球人。この剣にかかれば人間の体なぞ、一振りで血の一滴も残さず蒸発してしまうのだ。今からこれでお前を切る。命乞いでもしてみるか?えぇ?」  余裕綽々のティーン。すると映美は頭を垂れ、前髪をくしゃりとかき上げて呟いた。 「……そういう態度なんだよなぁ」 「あぁ?何か言ったか?」  聞き返すティーンの方は見ず、地を睨んだまま映美は続ける。 「……つまんない力を振りかざして人を下に置こうっていうその根性、本当に嫌いだよ」 「聞こえんと言っているだろう!もういい死ね!」  ティーンは苛立ち紛れに宇宙剣を振りかぶり、映美を一刀両断せんと大きく跳躍した。映美は顔を上げ、空中のティーンに向かって吠える。 「カーラは違う!カーラはボクを力で操ったりしない!ボクに求めるものがあるからこそ、気持ちごとぶつかって来てくれたんだ!だから自分自身まで傷ついて……そんなカーラだから、ボクは!」  高熱の切っ先が振り下ろされ、映美の脳天に迫る。それでも映美は目を逸らさない。 「ボクはカーラを、もっと好きになったんだ!!」
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