8人が本棚に入れています
本棚に追加
既に半壊状態のデビルパルダーだが、カゲトモたるもの容赦はしない。エミカーラはデビルパルダーの尾を掴むと、ハンマー投げの要領で振り回してたっぷりと勢いをつけ、思い切り上へと放り投げた。
「好き放題いたぶってくれたな……お返しはこの一撃だ!!」
校舎の屋上より高く上がったデビルパルダーが、今度は落下して来る。エミカーラはそれと対向するように自らもジャンプ。手刀を腰の位置で構えてぐんぐん上昇し、すれ違いざまにデビルパルダーの首の部分を薙ぎ払った。
「カゲトモ・ライトニングスライス!!」
裂帛の気合と共に音速の手刀が一閃し、デビルパルダーのそっ首が見事に打ち落とされる。二つに両断された残骸が空中で爆発するのを背に、エミカーラは華麗に着地した。
「ああーっ!デ、デビルパルダー!!」
嘆きにむせぶティーン。そこに再びダンからの通信が届いた。
「残念でしたな二代目。戻られる際はデビルパルダーの残骸の回収をお忘れなきよう。では」
「何ぃ?既に爆発したものを一体なぜ……あっ!切れた……クソッ!!」
ティーンは通信機を地に叩きつけてしばし憤っていたが、エミカーラの存在を思い出してそそくさと端末を起動した。
「いいかカゲトモ!今度のような幸運がそう何度も続くと思うなよ!我々ブラーボファミリーに盾突いたところで所詮無駄であると知るがいい!」
捨て台詞を残し、ティーンは空間の穴を通って帰投して行った。それと同時にハンティングフィールドが消滅し、焼け焦げた残骸や戦いの痕跡もきれいに消えて行く。やがて、さんさんと日差しの降り注ぐ中庭でエミカーラは合身を解き、映美とカーラは再び人と影になった。
「また、勝てちゃったね……うふふ」
『ええ、映美さんのおかげです。それで映美さん、その……』
カーラは紫苑色のシルエットを赤らめ、もじもじしながらこう告げた。
『……昼休みはすみませんでした。私が抱いていた勝手なイメージと、普段の映美さんとのギャップに戸惑うあまり、つい言い過ぎてしまって……。そのぅ、何と言いますか……昨日の映美さんがあまりにもかっこよかったので……』
それは何とも恥ずかしい告白。映美の方まで思わず真っ赤になってしまう。
「そ、そういうことだったの!?参ったなぁ……ってか、ボクの方こそごめんね。カーラと話せるようになったことが嬉しくて、ちょっと気持ちが行き過ぎてたよ」
つまりは、お互いがお互いを見つめていたが故に起こった不和だったらしい。映美にとっては幸せなのか何なのか……とにかく今は圧倒的に気恥ずかしさが勝っていた。
「だらしないとこもいっぱい見せちゃったし……正直幻滅したでしょ?」
『いいえ!そんなことありません!むしろさっきの映美さんの方が何倍も!』
「あ~~~やめてやめて恥ずかしいから!」
『そんな!言わせてくださいっ!私わかったんです!映美さんの素晴らしさが現れるのは日常の些事においてではなく正念場が訪れた時の……』
「勘弁してよぉ~~~!」
カーラが熱く語ろうとしては、映美が耳を塞いで逃げる。そんなふたりのドタバタは、他クラスで授業中の呉羽に映美が見咎められて雷を落とされるまで続いた。
一方その頃、屋上ではひとり残された清夏がキョトンとした顔をして、ベンチの隣りに目を落としていた。ハンティングフィールドの内部で起こったことや流れた時間は、現実世界に照らすと一秒にも満たない。清夏からすると、目を離したわずか一瞬のうちに映美が屋上から居なくなった格好になっていたのだ。
「……ワッザファッ??」
思わずスラングが口をつく程度には混乱していた清夏だったが、ふと目を上げると屋上の入り口のドアがいつの間にか半開きになっていた。
「……フゥ」
キーキー音を立てるそのアルミ扉を眺めながら、清夏は笑い交じりのため息をついた。
「早速、例の友達のとこに謝りにでも行ったのかね。フフフッ授業中だっての!……ま、坊やらしいっちゃらしいかぁ」
午後を迎えて空はますます晴れ渡り、春の日差しはあまねく影をくっきりと映し出す。清夏は雲の流れをしばし黙って眺め、やがて誰にというわけでもなく問いかけた。
「……友達って、誰ちゃんだろ。あの子、他にそんな仲良い人居たっけ……?」
答えの代わりに風がそよぎ、清夏のふたつ目のため息をそっと包んで空に溶かして行った。清夏が学校をフケる決意をしたのは、それからおよそ20分後のことであった。
第2話「いきなり喧嘩!?共同生活はドキドキいっぱい!」
おわり
次回へつづく
最初のコメントを投稿しよう!