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『女王様!!』
カーラの驚きの声に釣られ、映美も思わず高さ30cm程の女王のホログラムを凝視する。
「この人が女王様……」
シャドー界を統べる女王ペルセフォネ。優しくも威厳を感じさせるその偉大な存在感は、ホログラム越しにも伝わって来る。映美がしばし見惚れていると、女王のホログラムがにわかに口を開いて言葉を発し始めた。
――ごきげんよう、久しぶりですねカーラ。息災にしていますか?――
「喋った!?」
『女王様っ……ご無事なのですね?今、どうしていらっしゃるのですか?』
興奮した様子で尋ねるカーラ。女王はそんなカーラを慈しむように微笑み、然る後にこう答えた。
――わたくしは変わらず、城にて影のオーブを守っています。敵を一切近づかせぬよう王都は雪と氷に閉ざしたまま……貴女やシャドーの民たちが肉体を取り戻せる日も未だ遠いと言わざるを得ません――
カーラが人間界へと渡る際に目撃したシャドーキャッスルの凍結……それは武力で敵わぬ敵への苦肉の防御策にして、女王にできる精一杯の抵抗だ。女王は影のオーブをブラーボファミリーに渡すまいと、今日まで己の全魔力を傾けて来たのだ。
――しかし、きゃつらはカゲトモの活躍を見て注意を向け始めたのでしょう……長らく続いた城への攻撃はひとまず止みました。そのおかげで、わたくしは貴女と交信するだけのゆとりが持てるようになったのです。ありがとう、カーラ――
『そうだったのですか……本当に良かった……女王様がご無事でっ……私、私……もうどうしたらいいかと……っ!』
ずっと案じていた女王に再びまみえることができて緊張が解けたのか、カーラは子どものようにぐずり始める。映美はそんなカーラを見て自分まで嬉しくなるようだった。
(良かったね、カーラ。……カーラの背負ってる重荷が、これで少しは軽くなってくれればいいんだけど)
映美がそんなことを思っていると、女王は今度は映美の方を向いて語りかけて来た。
――それと、映美さん。貴女にも感謝しなければなりませんね――
「えっ、ボクぅ!?」
突然名前を呼ばれて映美は驚き、思わず裸の胸を隠した。隣のカーラからは『今更何を』とでも言いたげなオーラが飛んで来ている。
「そんな、ボクは何も……ただ、頑張ってるカーラの手伝いがしたかっただけです」
映美はできる限り威儀を正し、ありのままの気持ちを答えた。すると女王は一瞬目を丸くしたかと思うと、口に手を当てて優雅に笑った。
――フフフッ……貴女たちは本当に心から思い合っているのですね。カーラもシャドー界に居た頃、よく映美さんの話をしていましたよ。確か……――
『じ、女王様っ!何かされるべきお話があったのでは!?』
懐かしげに語り始めようとした女王を、カーラが慌てて制止した。
――あら、そうでしたね。とにかく、その気持ちこそがカゲトモの力を高めるエネルギーであり、この世で最も尊ぶべき感情です。大事にするのですよ――
(聞きたかった……)
映美は残念に思ったが、ここはいよいよ本題に入る女王の話に耳を傾けることにした。
――さて……知っての通り、ブラーボファミリーなる敵は両世界に存在するオーブを狙っています。影のオーブはわたくしが守りますが、人のオーブは貴女たちふたりの手で守っていただかなくてはなりません。そこで、わたくしからこれを授けましょう――
そう言って女王が手を差し伸べると、その指先から二筋の光が伸び、それぞれ映美とカーラの手首に纏いついた。
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