第1話 シャドー界の悲劇!カゲはトモだち?

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『良かったぁ……間に合いました』 だが、依然として声は聞こえる。鈴を鳴らすような、可愛らしい少女の声だ。まさかと思い、映美は自分の足元に目を落とした。そして目を見張った。 「まさか……君なの?」 『ええ、私です。そちらはやっぱり……あなた、ですよね?』 影が、黒くない。映美のかかとから前方に伸びるその影は、何とも鮮やかな紫苑色をしており、しかも姿形が映美とは丸きり別人のものに変化していた。熱い視線を感じさせる仕草を映美に向けながら、その影はこう言った 『私はカーラ。やっと会えました……私のシャドーメイトさん!』 「カーラ……!」  カーラ。カーラ。映美は影の名乗った名前を心の中で何度も反芻した。冷静でいられるわけがない。幼い頃から一番近くに居て、いつか言葉を交わしてみたいとずっと憧れ続けて来た影の友人。それが今、声を発して直に語りかけてくれているのだから。 『あのっ、あなたのお名前は?』 「え、あああっ、ボクは……映美!影丸、映美。です……」 『まあ、映美さん……映美さんと言うんですね』  会話だって確かに通じている。突然舞い降りた奇跡としか言いようのない出来事に、映美の頭の中はぐるぐると回って今にも気が遠くなりそう。 (えっ……これ、夢?いや、夢みたいな……夢みたい、だよ!)  それでも、嬉しい気持ちだけは唯一はっきりしていた。やっと会えた……やはり「彼女」は本当に居たのだ。映美はシャツの胸元をぎゅうと掴み、感極まって足踏みを繰り返した。 「~~~~~~っ!」  声にならぬ声と共に、映美の気持ちが一気に高揚する。この喜びをどうしてくれよう。もういっそ地面に映るカーラにダイブしてやろうかという考えまでが頭をよぎったが、その時、そのカーラの姿がにわかに映美の足元にぎゅんと寄って来た。見るとカーラはその場にぺたんと座り込んだ格好らしい。 『映美……さぁん……』  涙声と共に、何度もしゃくり上げる声が聞こえる。なんとカーラは映美の足元で泣き出してしまった。 「ええええ!?ちょっと、どうしたの?」  慌てて地面に這いつくばり、映美は泣きじゃくるカーラの顔を覗き込んだ。もっとも、紫苑色のシルエットが顔を覆う仕草をしているのみで表情は窺えないのだが。 『映美さんっ……私……私……』 「あわわ……な、泣かないでよぉ~」  ともかくカーラはとめどなく泣き続け、落ち着く気配がない。いつしか辺りには少々人通りが出てきた。映美としては変な目で見られることなど構わないのだが、地に伏せたままでは通行の邪魔になるし、救急車でも呼ばれては敵わない。 「しょうがない。カーラ、ちょっと場所変えよう……って、重っ!?」  座り込んだカーラをそのままに歩き出した映美は、脚にカーラの体の重みをそのまま感じたのに驚いた。かかとで繋がった者同士、息が合わないと思うように進めないようだ。 (さっきボクを車道から引き戻してくれた時は、こういう風にやったんだなぁ……)  などと感心しつつも、映美はぐずるカーラを懸命になだめすかし、何とか立たせて連行することに成功した。 「何があったのか、ゆっくりでいいから話してみて。ね?」 『ううう、すみません……折角会えたのに……』
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